日本

胃がん検診の機会で膵臓がんも見つけられるか

EUSと血液指標を使い、必要な人を精密検査へつなぐ検診の考え方

第65回日本消化器がん検診学会総会の会場入口に設置された案内看板。
第65回日本消化器がん検診学会総会の会場入口。消化器がん検診の今後や組織型検診の課題が議論された。(写真:編集部)

 膵臓がんは、見つけにくいがんの代表のように語られる。

 自覚症状が出にくく、体の奥にあるため、画像検査でも分かりにくいことがある。腹痛、体重減少、黄疸、糖尿病の発症や悪化などをきっかけに見つかることもあるが、その時点で進行している場合も少なくない。

 では、膵臓がんも胃がんや大腸がんのように、検診で広く見つけられるのか。

 第65回日本消化器がん検診学会総会では、平均的なリスクの人全員に膵臓がん検診を広げるのではなく、既にある消化器がん検診の場を使って、見つけにくい膵臓がんをどう拾い上げるかが議論されていた。

胃を見る機会に、膵臓も見る

超音波内視鏡検査を受ける人と、内視鏡を操作する医療従事者のイラスト。
超音波内視鏡検査(EUS)は、胃や十二指腸の近くから膵臓を詳しく観察する検査として用いられる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 膵臓がんには現在、国の指針として定められた一般住民向けの検診はない。
  • 麻生飯塚病院では、直視型超音波内視鏡を使い、一度の検査機会で胃と膵臓の両方を調べている。
  • 既存の胃がん検診や人間ドックの機会を活用し、見つけにくい膵臓がんを拾い上げる方法として注目される。

 膵臓がんでは、検診としてどう実施するかを決めることが難しい。

 膵臓は胃や腸の奥にあり、通常の胃内視鏡で直接見ることはできない。腹部超音波、CT、MRI、超音波内視鏡などの検査はあるが、集団検診として誰に、どの検査を、どの間隔で行うかは簡単に決められない。

 国立がん研究センターのがん情報サービスも、膵臓がんについては、現在、国の指針として定められた検診はないと説明している。

 具体例として紹介されたのが、麻生飯塚病院の取り組みだ。

 麻生飯塚病院予防医学センターでは、超音波内視鏡検査(EUS)を使った膵臓がん検診を行っている。特徴は、胃カメラも同時に行える直視型超音波内視鏡を使い、一度の検査で胃と膵臓の両方を調べられる点にある。

 胃がん検診や人間ドックで内視鏡を受ける人は多い。その機会に、超音波内視鏡を使って膵臓も確認できれば、別の日に新たな検査を受けるより、受診者の負担を抑えられる可能性がある。

 もちろん、通常の胃内視鏡で膵臓を直接見るという話ではない。直視型超音波内視鏡を用いて、胃の観察と膵臓の評価を同じ検査機会に組み合わせるという発想になる。

 ただし、検診の成果は、「見つかった」ことだけでは評価できない。見つかったことで治療につながり、死亡率や生活の質に良い影響があったのか。不要な検査や不安を増やしただけではなかったのか。そこまで見なければ、利益と不利益は判断しにくい。

 これは、膵臓がん検診を一般住民全体に広げるという話ではない。既にある検診やドックの場を使い、見つけにくい膵臓がんをどう拾い上げるかという試みになる。麻生飯塚病院の取り組みは、既存の検査機会をどう使うかという点で参考になり得る。

血液検査に加えて、詳しい検査へつなぐ工夫がいる

医療従事者が手袋をして複数の採血管を持っている手元。
膵臓がんの拾い上げでは、血液指標を用いて詳しい画像検査につなげる方法も検討されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • APOA2アイソフォームなどの血液指標は、膵臓がんリスクを拾い上げる手掛かりとして活用が検討されている。
  • 血液検査だけで診断は完結せず、リスクに応じて腹部超音波、CT、MRI、EUSなどの詳しい検査につなぐ必要がある。
  • 家族歴や糖尿病、慢性膵炎、IPMNなど複数の情報を組み合わせ、詳しい検査が必要な人を絞り込む方法が現実的となる。

 膵臓がんリスクを拾う方法として、血液指標を使う考え方もある。

 APOA2アイソフォームは、膵臓がんの診断補助に使われる血液指標として注目されている。APOA2アイソフォームの濃度変化に着目し、膵臓がんの診断を補助する体外診断用医薬品「東レAPOA2-iTQ」も国内で承認されている。

 こうした血液検査は、見つけにくい膵臓がんを拾い上げる手がかりになる。ただし、血液検査だけで完結するわけではない。

 膵臓がん検診で難しいのは、誰にCT、MRI、EUSなどの詳しい検査を勧めるかだ。全員に高度な画像検査を行うことは現実的ではない。腹部超音波も比較的受けやすい検査だが、体格や腸管ガス、検査者の技量によって膵臓が見えにくいことがある。

 そこで、APOA2アイソフォームのような血液指標、家族歴、糖尿病のほか、慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵のう胞の経験があるか、喫煙、飲酒、肥満の有無などを組み合わせ、リスクの高い人を拾い上げる。そこから腹部超音波、CT、MRI、EUSなどにつなげる。こうした段階的な使い方が現実的になる。

 麻生飯塚病院のように、胃内視鏡検査の機会を使ってEUSで膵臓も確認する工夫は、血液指標や問診だけでは届きにくい部分を補う試みともいえる。

 検診の課題は、APOA2を使う場合も同じだ。リスクが高いと判定された人が、腹部超音波や精密検査に進んだのか。膵臓がんは見つかったのか。見つかったがんは早期だったのか。治療につながったのか。その後の経過はどうだったのか。ここまで追えなければ、リスク層別化の価値は正しく評価できない。

必要な人に詳しい検査を届ける

医療従事者が内視鏡を手に持ち、検査に備えている様子。
膵臓がんを検診で拾い上げるには、内視鏡検査や画像検査の結果を精密検査、診断、治療へつなげる体制が重要となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • EUSは胃や十二指腸の近くから膵臓を観察でき、腹部超音波では見えにくい部分を詳しく調べられる可能性がある。
  • 検診として生かすには、誰に勧めるか、どの結果で精密検査へ進めるか、どの医療機関につなぐかを決める必要がある。
  • 検査後の診断や治療、その後の経過まで追跡して初めて、膵臓がんを拾い上げる取り組みの有効性を評価できる。

 膵臓がんを検診で見つけることは難しい。だからこそ、受診する側から見れば、「どの検査なら膵臓がんを見つけてくれるのか」が大きな関心になる。

 麻生飯塚病院のEUS検診は、その問いに対する一つの答えになる。通常の胃内視鏡では見えない膵臓を、胃や十二指腸の近くから超音波で観察できるため、腹部超音波では見えにくい膵臓の状態を詳しく調べる手段になり得る。

 APOA2アイソフォームのような血液指標も、膵臓がんリスクを拾う手掛かりになる。だが、血液検査でリスクを示すだけでは、受診者にとって十分とはいえない。そこから、どの画像検査へ進むのか。異常が見つかった場合、どの医療機関で詳しく調べるのか。異常がなかった場合、いつ見直すのか。こうした流れが必要になる。

 同じ検査機会で胃と膵臓を調べられることは、受診者にとって分かりやすい利点になる。ただし、それだけで検診として有効に働くわけではない。誰に勧め、どの結果で精密検査へ進め、どの医療機関につなぎ、その後どうなったのか。ここまで追える仕組みがあって初めて、膵臓がんリスクを拾い上げる取り組みは評価できる。

 胃がん検診の場で膵臓がんも見つけられるか。その答えは、通常の胃カメラでは見えない膵臓を、EUSなどの検査でどう確認し、必要な人を早い段階で診断や治療につなげられるかにある。麻生飯塚病院の取り組みは、見つけにくい膵臓がんをどう見つけるかを考える具体例として位置づけられる。

SERIES

第65回日本消化器がん検診学会総会

  1. 1 学会から見えた日本の消化器がん検診の課題
  2. 2 便潜血陽性で終わらせない大腸がん検診
  3. 3 大腸CTは精密検査未受診を減らせるか
  4. 4 胃がん検診の機会で膵臓がんも見つけられるか
星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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