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がん外科医の仕事は手術だけではない 放射線で免疫を高める治療研究にも挑む

照射していないがんにも作用する「アブスコパル効果」に注目 河野浩二会長が講演 第64回日本癌治療学会学術集会

第64回日本癌治療学会学術集会の会長、河野浩二氏。大会名が記された演台で講演している様子。
第64回日本癌治療学会学術集会の会長を務める、福島県立医科大学消化管外科学講座主任教授の河野浩二氏。(写真:編集部)

 がんの手術を担当する外科医に求められる役割が広がっている。手術でがんを取り除くことに加え、薬物療法や放射線治療、がんの遺伝子や免疫の特徴を理解し、新しい治療法の開発にも関わることが重要になっている。

 2026年10月22日に神戸市で開幕した第64回日本癌治療学会学術集会では、会長を務める福島県立医科大学消化管外科学講座主任教授の河野浩二氏が、23日に「Academic Surgeonを極める」と題して講演。手術技術の向上と研究活動を両立する外科医の重要性について説明した。

放射線で免疫を活性化、離れたがんにも作用する可能性

第64回日本癌治療学会学術集会の開会式。大型スクリーンに登壇者の姿と大会テーマが映し出され、ステージ中央であいさつが行われている。
第64回日本癌治療学会学術集会の開会式。大会テーマには「One Team to Conquer Cancer」が掲げられた。会長を務める、福島県立医科大学消化管外科学講座主任教授の河野浩二氏。(写真:編集部)
  • 放射線治療には、がん細胞を直接傷つけるだけでなく、がんを攻撃する免疫を活発にする働きも。
  • 放射線を当てていない別の場所のがんにも効果が及ぶ「アブスコパル効果」に注目。放射線と免疫療法を組み合わせる研究が進む。
  • 進行・再発胃がんの研究では、40人の22.5%で照射していない病変が縮小、または一定期間増大せず。治療効果のさらなる検証に期待。

 河野氏が紹介した研究の一つが、放射線治療と免疫療法を組み合わせ、「アブスコパル効果」を生かすことで、がんの治療効果を高めようというテーマだ。

 放射線治療は、がん細胞を傷つけて増殖を抑える治療として使われてきた。一方、放射線は免疫細胞も傷つけるため、免疫の働きを弱める側面があると考えられてきた。しかし、放射線には、がんを攻撃する免疫を活性化させる働きもあることが分かってきた。

 放射線によってがん細胞が傷つくと、がん細胞に特徴的なタンパク質などが免疫系に認識されやすくなる。これをきっかけに、がんを攻撃する免疫細胞が活性化され、放射線を当てていない別の場所のがんにも作用する可能性がある。

 こうして、放射線を当てた場所から離れたがんも縮小する現象を「アブスコパル効果」と呼ぶ。

 従来、放射線治療は主に照射した場所のがんを治療する方法だったが、免疫の働きを利用することで、離れた場所のがんにも効果を及ぼせる可能性が注目されている。

 福島県立医科大学では、放射線腫瘍学講座と消化管外科学講座などが協力し、手術ができない進行・再発胃がんを対象に、放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」を組み合わせる「CIRCUIT試験」を実施した。

 この研究では、複数の場所にがんがある人に対し、一部のがんに放射線を照射した後、ニボルマブを投与した。免疫療法を組み合わせることで、放射線を当てていない病変にも治療効果が及ぶかを調べた。

 2023年に公表された研究では、効果を評価できた40人のうち22.5%で、放射線を当てていない病変が縮小するか、一定期間、明らかな増大が見られなかった。関連する研究では、放射線治療後に、治療前には検出されなかったがん関連の物質を認識する免疫細胞が見つかり、放射線によってがんへの免疫が活性化する可能性も示された。

 さらに2026年には、5年間の追跡結果が報告された。放射線を照射した病変について、その場所での増大が抑えられている割合を推定した「局所制御率」は、5年時点で57.5%だった。また、全身の病状が進行しないまま5年以上生存した人も2人いた。

 放射線と免疫療法を組み合わせることで、どの程度治療効果が高まるかは、さらに検証が必要になるが、放射線による免疫の活性化を積極的にがん治療に生かそうとする研究は、新しい治療法の開発につながる可能性がある。

手術で得た情報を研究に生かし、新しい治療法の開発へ

第64回日本癌治療学会学術集会の会場ステージ。大会テーマ「One team to Conquer Cancer」と「JSCO2026」の文字が掲げられている。
2026年10月22~24日に神戸市で開催された第64回日本癌治療学会学術集会。大会テーマには「One team to Conquer Cancer」が掲げられた。(写真:編集部)
  • 手術の技術を磨くだけでなく、診療で生じた疑問を研究し、新しい治療法の開発につなげる外科医の役割に注目。
  • 食道がんで抗がん剤が効きにくくなる仕組みや、胃がんの遺伝子の弱点を狙った新しい治療薬の研究も進む。
  • ロボット支援手術の導入も推進し、2025年時点で累計800例超。手術技術の向上や若手医師の育成にも取り組む。

 河野氏が掲げる「Academic Surgeon(アカデミックサージャン)」は、手術の技術を磨くだけでなく、実際の診療で生じた疑問を研究で調べ、その成果を新しい治療法の開発につなげようとする外科医を指す。

 例えば、手術で切除したがんの組織を調べ、抗がん剤が効きにくい理由や、再発しやすいがんの特徴を解明する。こうした研究を通じて、治療法の改善を目指すことも重要な役割となる。

 そうした研究の一つとして、河野氏らは、食道がんの手術前に抗がん剤を使用した際、がんの周囲にある免疫細胞がどのように変化するかを調べてきた。2021年には、手術前の抗がん剤治療によって、免疫を抑える働きに関係する「IL-34」という物質が増え、抗がん剤が効きにくくなる仕組みに関係する可能性を報告した。

 胃がんでも、特定の遺伝子が働かなくなったがん細胞に対し、その弱点を狙う薬によって増殖を抑えられることを実験で確認した。

 こうした発見は、新たな治療薬や治療法の開発につながる可能性がある。

 一方、外科医としての手術技術を高めることも重視している。福島県立医科大学では、食道がんや胃がん、大腸がんなどに対するロボット支援下手術を導入し、2025年時点で手術件数が累計800例を超えた。手術手順の標準化や若手医師への技術指導にも取り組んでいる。

 河野氏は講演の冒頭、自身の海外での研究や診療経験を紹介した。1994年にはスウェーデンのカロリンスカ医科大学でがん免疫の研究に従事し、2011年にはシンガポール国立大学で外科教授を務め、ロボット手術にも取り組んだ。こうした海外経験を通じて、河野氏は手術技術だけでなく、がん免疫などの研究にも取り組んできた。その歩みは、手術だけでなく、がんの性質を理解し、治療全体を考えることが求められる現在の外科医の役割を先取りしていたとも考えられる。

 がんを取り除く手術の技術だけでなく、遺伝子や免疫の研究を通じて、新しい治療法の開発にも関わる。河野氏の講演は、がん外科医に求められる役割がさらに広がっていることを示すものとなった。

参考文献

Mimura K, Ogata T, Yoshimoto Y, Yoshida D, Nakajima S, Sato H, Machida N, Yamada T, Watanabe Y, Tamaki T, Fujikawa H, Inokuchi Y, Hayase S, Hanayama H, Saze Z, Katoh H, Takahashi F, Oshima T, Suzuki Y, Kono K. Phase I/II clinical trial of nivolumab in combination with oligo-fractionated irradiation for unresectable advanced or recurrent gastric cancer. Commun Med (Lond). 2023 Aug 15;3(1):111. doi: 10.1038/s43856-023-00343-4. PMID: 37582945; PMCID: PMC10427681.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37582945/

Suzuki Y, Yoshida D, Mimura K, Ogata T, Yoshimoto Y, Katoh H, Hanayama H, Machida N, Sato H, Saze Z, Yamada T, Inokuchi Y, Takahashi F, Oshima T, Kono K. Nivolumab in combination with radiotherapy for unresectable advanced or recurrent gastric cancer (CIRCUIT trial): A 5-year update of the progression-free survival and local control outcomes. Radiother Oncol. 2026 Jun;219:111494. doi: 10.1016/j.radonc.2026.111494. Epub 2026 Mar 19. PMID: 41862024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41862024/

胃癌症例においてニボルマブと局所放射線治療を用いた複合がん免疫療法により誘導される免疫学的変化(福島県立医科大学、2024年)
https://www.fmu.ac.jp/research/results/seika/2023/20240130.html

切除不能な進行性または再発胃がんに対するニボルマブと放射線療法の併用療法(CIRCUIT試験):無増悪生存期間および局所制御に関する5年経過報告(福島県立医科大学、2026年)
https://www.fmu.ac.jp/research/results/seika/2026/20260611.html

Nakajima S, Mimura K, Saito K, Thar Min AK, Endo E, Yamada L, Kase K, Yamauchi N, Matsumoto T, Nakano H, Kanke Y, Okayama H, Saito M, Neupane P, Saze Z, Watanabe Y, Hanayama H, Hayase S, Kaneta A, Momma T, Ohki S, Ohira H, Kono K. Neoadjuvant Chemotherapy Induces IL34 Signaling and Promotes Chemoresistance via Tumor-Associated Macrophage Polarization in Esophageal Squamous Cell Carcinoma. Mol Cancer Res. 2021 Jun;19(6):1085-1095. doi: 10.1158/1541-7786.MCR-20-0917. Epub 2021 Mar 5. PMID: 33674443.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33674443/

ARID1A欠損胃癌に対する合成致死に基づいたEZH2阻害剤の選択的感受性の検討(福島県立医科大学、2020年)
https://www.fmu.ac.jp/research/results/seika/2020/202009082.html

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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