日本

「眠れているつもり」でも睡眠不足の疑い 自覚と睡眠の実態にずれ 筑波大学の柳沢正史氏が最新動向を解説

自覚しにくい睡眠時無呼吸、心血管疾患による死亡リスク上昇との関連も 自宅での検査も進歩 第64回日本癌治療学会学術集会

第64回日本癌治療学会学術集会の演台でマイクを持ち、睡眠に関する研究成果を紹介する筑波大学の柳沢正史氏。
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史氏が、睡眠の仕組みや睡眠障害を見つける新しい検査技術について特別講演を行った。(写真:編集部)

 十分に眠れていると思っていても、実際には睡眠不足の可能性がある。

 2025年に発表された日本の研究では、自分では十分に眠れていると感じていた人の45%に、脳波などを用いた測定で睡眠不足が疑われた。

 睡眠の状態を客観的に正しく把握することは、本人が気付きにくい睡眠障害の発見にもつながる。

 2026年10月22日に神戸市で開幕した第64回日本癌治療学会学術集会で、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史氏が、睡眠の仕組みについての研究成果に加え、睡眠障害を見つけるための新しい技術などについて講演した。

睡眠時無呼吸、重症でも本人が気付かない場合も

薄暗い寝室で、掛け布団をかけて横向きに眠る女性。枕に頭を乗せ、目を閉じている。
十分に眠れていると感じていても、実際には睡眠不足の可能性がある。日本の研究では、よく眠れていると感じていた人の45%に、客観的な測定で睡眠不足の疑いが示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 自宅で睡眠を測定した421人の研究では、十分に眠れていると感じていた人の45%に睡眠不足の疑い。一方、不眠を訴えた人の66%では測定上の明らかな問題を確認できず。
  • 睡眠時無呼吸は、眠っている間に呼吸が止まったり弱くなったりする病気。本人が気付かないことも多く、日本では約900万人に中等症以上の睡眠時無呼吸があると推計。
  • 米国の追跡研究では、重症の睡眠時無呼吸と死亡リスク上昇との関連が報告。心血管疾患による死亡リスクは約5.2倍と推定された。

 柳沢氏らが2025年に発表した研究では、睡眠障害の治療を受けていない421人について、自宅で測定した睡眠中の脳波や血中酸素飽和度などのデータと、本人が感じている睡眠の状態を比較した。

 その結果、自分では十分に眠れていると感じていた人の45%に、客観的な測定結果に基づく医師の評価で睡眠不足の疑いが認められた。一方、不眠を訴えていた人の66%では、客観的な測定による明らかな問題は確認されなかった。

 特に注意が必要なのが、睡眠中に呼吸が止まったり弱くなったりする「睡眠時無呼吸」だ。

 典型的な睡眠時無呼吸は、眠っている間に喉の筋肉が緩み、空気の通り道が狭くなったり、ふさがったりすることで起こる。呼吸が止まると血液中の酸素が減少し、呼吸を再開するために脳が何度も短く目覚める。問題は、本人がこうした変化に気付かない場合があることだ。眠りが何度も中断されても、その一つ一つはほとんど自覚されない。十分に眠ったつもりでも、実際には呼吸の異常が一晩中繰り返されていることがある。

 日本では、2019年に発表された国際研究で、30~69歳の約900万人に中等症以上の睡眠時無呼吸があると推計された。診断や治療につながっている人は1割以下と考えられ、本人が呼吸の異常に気付かず、病気が見逃されている可能性がある。

 睡眠時無呼吸による影響は、日中の眠気や疲労感や、それによる事故などのリスクだけではない。呼吸が止まるたびに酸素不足が繰り返され、血圧が上昇するなど、心臓や血管にも負担がかかる。高血圧や不整脈、脳卒中、心筋梗塞などとの強い関連が指摘されている。

 柳沢氏は、米国で行われた長期追跡研究も紹介。研究では、成人1522人を最大約18年間追跡し、睡眠時無呼吸の重症度と死亡リスクとの関係を調べた。CPAPを定期的に使用していた人を除いて解析したところ、重症の睡眠時無呼吸がある人では、呼吸の異常がない人に比べ、年齢や性別、肥満度などの影響を考慮しても、あらゆる原因による死亡リスクが約3.8倍、心血管疾患による死亡リスクが約5.2倍と推定された。これは観察研究の結果であり、因果関係が証明されたわけではないが、睡眠時無呼吸の重症度と死亡リスクとの間に強い関連が認められた。

 睡眠中の呼吸停止を家族から指摘されたり、大きないびきや日中の強い眠気、あるいは夜間頻尿がある場合には、睡眠時無呼吸が疑われる。眠気をほとんど感じない人にも重症例がある。こうした病気を見逃さず、必要に応じて睡眠中の呼吸を調べる検査につなげることが、健康を守る上で重要になる。

自宅で脳波を測定、睡眠障害を見つける技術が進む

青みがかった薄暗い寝室で、ベッドに横たわり、片腕を頭の下に置いて眠る男性を上から撮影した写真。
睡眠時無呼吸は、眠っている間に呼吸が止まったり弱くなったりする病気で、本人が異常に気付かない場合もある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 額と耳の後ろに電極を付け、自宅で睡眠中の脳波を測る「インソムノグラフ」を開発。AIで睡眠の深さや途中で目覚める回数などを解析。
  • 睡眠時無呼吸が疑われる77人の研究では、睡眠時間や睡眠の深さなどの測定結果が、従来の精密検査とおおむね一致。
  • 2026年度の診療報酬改定で、自宅で本人が装置を装着する精密な睡眠検査の評価も見直し。睡眠障害の発見につながる技術と制度の整備が進む。

 柳沢氏によれば、同氏らが開発した「インソムノグラフ」は、額と耳の後ろに電極を装着し、自宅で睡眠中の脳波を記録できる。測定したデータをAIで解析し、睡眠の深さや安定度、途中で目覚める回数などを調べる。

 2024年に発表された研究では、睡眠時無呼吸が疑われる77人を対象に、病院でインソムノグラフと従来の精密検査装置を同時に使用した。その結果、睡眠時間や睡眠の深さなどの測定結果がおおむね一致した。血中酸素飽和度などの測定を組み合わせることで、睡眠時無呼吸の評価にも役立つ可能性が示された。

 また、2026年度の診療報酬改定では、睡眠時無呼吸症候群の診断などに用いる精密な睡眠検査「終夜睡眠ポリグラフィー」について、医療従事者が訪問せず、本人が自宅で装置を装着する方法などについて、医療機関内での検査や医療従事者が訪問する検査とは異なる診療報酬が設定された。自宅で手軽に睡眠を測定する技術が進歩する中、こうした技術を医療現場で活用するための制度面での変化としても注目される。

 睡眠の異常を客観的に捉える技術が進むことで、これまで見逃されていた睡眠障害を発見し、適切な治療につなげる機会が増える可能性がある。ただし、こうした検査の普及によって将来の病気がどの程度減るかについては、今後の検証が必要になる。

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

参考文献

Masaki M, Tsumoto S, Tani A, Tominaga M, Seol J, Chiba S, Miyanishi K, Nishida K, Kawana F, Amemiya T, Hiei T, Kanbayashi T, Yanagisawa M. Discrepancies between subjective and objective sleep assessments revealed by in-home electroencephalography during real-world sleep. Proc Natl Acad Sci U S A. 2025 Jan 21;122(3):e2412895121. doi: 10.1073/pnas.2412895121. Epub 2025 Jan 16. PMID: 39819218; PMCID: PMC11761674.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39819218/

Young T, Finn L, Peppard PE, Szklo-Coxe M, Austin D, Nieto FJ, Stubbs R, Hla KM. Sleep disordered breathing and mortality: eighteen-year follow-up of the Wisconsin sleep cohort. Sleep. 2008 Aug;31(8):1071-8. PMID: 18714778; PMCID: PMC2542952.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18714778/

Seol J, Chiba S, Kawana F, Tsumoto S, Masaki M, Tominaga M, Amemiya T, Tani A, Hiei T, Yoshimine H, Kondo H, Yanagisawa M. Validation of sleep-staging accuracy for an in-home sleep electroencephalography device compared with simultaneous polysomnography in patients with obstructive sleep apnea. Sci Rep. 2024 Feb 12;14(1):3533. doi: 10.1038/s41598-024-53827-1. PMID: 38347028; PMCID: PMC10861536.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38347028/

令和8年度診療報酬改定15. 医療技術の適切な評価(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717220.pdf

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の会長、河野浩二氏。大会名が記された演台で講演している様子。
第64回日本癌治療学会学術集会の会長を務める、福島県立医科大学消化管外科学講座主任教授の河野浩二氏。(写真:編集部)

がん外科医の仕事は手術だけではない 放射線で免疫を高める治療研究にも挑む

がんの手術を担当する外科医に求められる役割が広がっている。手術でがんを取り除くことに加え、薬物療法や放射線治療、がんの遺伝子や免疫の特徴を理解し、新しい治療…

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

大腸がん検診、便潜血「陽性」の後が課題 精密検査の受診から結果把握まで「組織型検診」の体制整備を

大腸がん検診では、新しい検査技術の開発が進む一方、現在の検診を十分に活用できていないことが課題となっている。特に、便潜血検査で陽性となった人が確実に精密検査…

第64回日本癌治療学会学術集会の演台で、マイクを使って講演する坂東英明氏。
MCED検査の適正な利用に向けたガイダンス作成について講演する、国立がん研究センター東病院の坂東英明氏。(写真:編集部)

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が初の見解書を公表 世界でも先駆的な適正利用の考え方を提示

血液や尿などを使い、複数のがんをまとめて調べる「多がん種早期検出(MCED)」検査について、日本癌治療学会は2026年10月22日、初めての見解書となる「多…

第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。演台で講演する登壇者と、座長席で話を聞く2人の座長、参加者の様子。
2026年10月16~18日に鹿児島市で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。専門家による研究発表や討論が行われた。(写真:編集部)

MRIの撮影方法を工夫し、これまで分かりにくかった病気の特徴を捉える研究が進む

MRIの撮影方法を工夫することで、これまでの画像では分かりにくかった病気の特徴や、治療による変化を捉えようとする研究が進んでいる。注目されているのは、体内の…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

全身MRI、異常が疑われる場所をカラー表示で見やすく 画像を重ね合わせる「フュージョン」に注目

全身をMRIで調べる検査で、異常が疑われる部分と、体の形が分かる画像を重ね合わせる「フュージョン画像」が注目されている。2026年10月16日から鹿児島市で…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す