研究

血液検査1回でアルツハイマー病の「症状が出る時期」を予測

血液中の「タウタンパク質」の変化を測る、米ワシントン大学医学部の研究チームが報告

医療従事者が腕から採血している様子。
医療機関での採血の様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 米ワシントン大学医学部(WashU Medicine)は、1回の血液検査の結果から、アルツハイマー病の症状が始まる年齢を推定する手法を開発した。

 2026年2月19日付の医学誌「Nature Medicine」で発表した。

血液で発症のタイミングを読む

血液が入った複数の試験管がラックに並んでいる。
血液検査用の試験管。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 血液中の「タウタンパク質」の変化を指標に、アルツハイマー病の進行を推定する方法を作った。
  • タンパク質蓄積の規則的な進行を「年輪」のように捉え、異常が始まった時期からの経過年数を計算する。
  • 低コストな血液検査で、発症時期の予測を目指す手法を検証した。

 アルツハイマー病は、脳内に「アミロイドβ(Aβ)」と「タウ(tau)」と呼ばれるタンパク質が長年かけて蓄積することを特徴とする病気とされる。

 一方、アミロイドやタウの蓄積はいったん始まると一定のペースで進むことが知られ、その「進み方の規則性」から時計のように発症を予測する方法が考えられている。

 従来は、放射性物質を使う「PET(ポジトロン断層法)」のような高コストの検査が用いられてきたが、今回の研究は、より低コストで利用しやすい血液検査を検証した研究となる。

 研究チームは、血液中のタウタンパク質に着目し、これを目安にアルツハイマー病の進行を調べる方法を検討した。

 タウタンパク質は、単純に量を測るのではなく、タンパク質の特定部位がリン酸化することが脳内異常と関連している点を踏まえ、リン酸化タウタンパク質の比率(%p-tau217:217番目部位がリン酸化されたタウの割合)を測ることで、アルツハイマー病の進行を予測するという方法を取っている。

 米国で進んでいるアルツハイマー病に関する2つの研究のデータを使い、年輪の数のような形で数値の推移を評価する数学的なモデルを構築。血液中の数値がある基準を超えた時を「病気の変化が始まったタイミング」と考え、そこからどれくらい時間がたっているかを計算できるようにした。これをアルツハイマー病の進行段階と関連付けた。

高齢ほど発症が早い傾向も確認

医師が高齢男性に説明をしている診察室の様子。
医師が患者に説明を行う診察室の様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 症状開始年齢を平均3~4年の誤差で推定可能と示された。
  • 陽性化後から発症までの期間は年齢で異なり、高齢であるほど短い傾向が確認された。
  • 臨床試験への応用が期待される一方、無症状者への個別検査には慎重な運用が必要と指摘される。

 ここで作られた方法により、アルツハイマー病の症状開始の年齢を、約3~4年の平均誤差で推定することが可能と分かった。

 研究チームは、陽性化してから症状が出るまでの期間が年齢によって大きく異なると説明している。例として、60歳では症状開始まで約20年後であったのに対し、80歳で陽性化した場合は約11年後と推定された。同じようにスイッチが入ったとしても、高齢ほど症状が出やすい可能性が示された。

 また、この予測の仕組みは「特定の会社の血液検査でないと使えない」というものではないことも確認された。

 こうした「発症の時期」を見積もる技術は、予防および先制医療の臨床試験を現実的にする。アルツハイマー病は、限られた期間に発症するかが事前に予測しづらく、薬の効果などを検証するのが困難となる。一定期間内に症状が始まりやすいことが分かっていれば、それを予防したり治療したりすることを確かめやすくなる。

 もっとも、研究グループは、個人の意思で検査するには誤差がなお大きいと指摘する。無症状者への検査は推奨されず、慎重な運用が必要だとしている。今後は、他の血液検査で分かる指標を組み合わせ、精度を高める方向が考えられる。

参考文献

Blood test “clocks” predict when Alzheimer’s symptoms will start
https://medicine.washu.edu/news/blood-test-clocks-predict-when-alzheimers-symptoms-will-start/

Petersen KK, Milà-Alomà M, Li Y, Du L, Xiong C, Tosun D, Saef B, Saad ZS, Du-Cuny L, Coomaraswamy J, Mordashova Y, Rubel CE, Meyers EA, Shaw LM, Dage JL, Ashton NJ, Zetterberg H, Ferber K, Triana-Baltzer G, Baratta M, Rosenbaugh EG, Cruchaga C, McDade E, Holtzman DM, Morris JC, Sabandal JM, Bateman RJ, Bannon AW, Potter WZ, Schindler SE; Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (ADNI); Foundation for the National Institutes of Health (FNIH) Biomarkers Consortium Plasma Aβ and Phosphorylated Tau as Predictors of Amyloid and Tau Positivity in Alzheimer’s Disease Project Team. Predicting onset of symptomatic Alzheimer’s disease with plasma p-tau217 clocks. Nat Med. 2026 Feb 19. doi: 10.1038/s41591-026-04206-y. Epub ahead of print. PMID: 41714746.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41714746/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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