引き続き連載でDWIBS(ドゥイブス)について見ていく。
これまでの連載では、DWIBSが日本発のMRI技術として報告され、放射線被ばくを伴わずに全身のがんや転移、リンパ節病変を探す方法として研究されてきたことを見た。
また、DWIBSを含む全身拡散強調MRIが、PET検査に近い感度を示す可能性についても紹介した。DWIBSは、水分子の動きの違いを手がかりに病変を浮かび上がらせる検査として、早い段階から関心を集めてきた。
一方で、乳がん検診には、既に長く使われてきた標準的な検査がある。
それはマンモグラフィで、乳がん検診にDWIBSを応用する可能性を考えるには、まずマンモグラフィで疑わしいとされた病変に対して、DWIBSがどのような情報を加えられるかを見る必要がある。
今回取り上げる2015年の論文では、DWIBSが乳がん検診に使える可能性を探る初期段階として、標準的なマンモグラフィの結果と照らし合わせる形で、その実力が試された。
マンモグラフィの結果をDWIBSで評価
乳房を圧迫板で挟んで撮影するマンモグラフィ検査。画像はイメージ。(画像:Adobe Stock)
2015年の研究では、マンモグラフィで疑わしい病変を指摘された女性50人にDWIBSを含む乳房MRI検査が行われた。
DWIBSは、マンモグラフィを置き換えるものではなく、見つかった病変が悪性かどうかを見極める補助検査として検討された。
この研究は、造影剤を使わないMRI技術であるDWIBSが、乳がん検診後の評価に役立つかを調べた初期研究といえる。
乳がん検診で広く使われてきたマンモグラフィは、乳房を圧迫してX線で撮影し、しこりや石灰化などの異常を見つける検査。乳がんの早期発見に重要な役割を果たしてきた。
課題としては、乳房を挟み込むときの痛みや放射線被ばくへの抵抗感、乳腺が多い人で病変が見えにくくなる場合があることなどが知られている。
そのため、マンモグラフィに代わる、あるいは補う検査として、超音波検査やMRI検査が研究されてきた。DWIBSもその流れの中で、乳房検査への応用が注目されるようになった。
ただし、新しい検査が登場したからといって、すぐに既存の検診を置き換えられるわけではない。特に乳がん検診では、多くの人を対象に、がんを見逃さないことに加え、不要な精密検査を増やし過ぎないことも求められる。
そのため、新しい検査の実力を知るには、まず標準的な検診で見つかった病変に対して、その検査がどのように反応するのかを確認する必要がある。
2015年に放射線医学の専門誌に掲載された研究では、マンモグラフィ検診で疑わしい病変を指摘され、組織を直接採取する生検の適応がある女性50人を対象に、DWIBSを含む乳房MRI検査が行われた。対象者は50〜69歳の女性で、平均年齢は57.1歳。この研究では、2014年9月から2015年1月までに、マンモグラフィで疑わしい病変を指摘された女性を集め、生検の前にDWIBSを含む乳房MRI検査を行った。
目的は、マンモグラフィで見つかった疑わしい病変が、DWIBSではどのように見えるのかを確かめることだった。乳がん検診の標準的な検査であるマンモグラフィで見つかった病変を対象に、DWIBSが悪性の可能性を見極める手がかりになるかを調べた。
DWIBSは、造影剤を使わずに病変を目立たせるMRIの方法。この研究では、DWIBSで病変が見えるかどうか、さらにその結果が実際の診断とどの程度合っているかが検討された。
そのため、この論文は「DWIBSがマンモグラフィを置き換える」と示したものではない。まずは、マンモグラフィで見つかった病変を対象に、DWIBSの見え方や診断の手がかりとしての力を確かめた初期研究といえる。
検診後の不安や負担を減らす可能性
乳房を撮影して乳がんの早期発見につなげるマンモグラフィ検査。画像はイメージ。(画像:Adobe Stock)
DWIBSでは、乳がんを見つける感度が92%、乳がんではない人を見分ける特異度が94%と報告された。
DWIBSで「悪性ではなさそう」と判断された場合、実際に悪性ではなかった割合も高く、不安や追加検査の負担を減らす可能性が示された。
撮影時間は7分未満、読影も短時間で行えたが、対象者50人の小規模研究であり、結果は慎重に見る必要がある。
研究では、対象となった50人のうち24人に乳がんが見つかった。
DWIBSを用いた検査では、乳がんがあった人の多くを正しく検出できた。また、乳がんではなかった人についても、多くを「乳がんではない可能性が高い」と判断できた。
具体的には、乳がんがある人を正しく見つける割合である感度は92%、乳がんではない人を正しく見分ける割合である特異度は94%であった。さらに、DWIBSで「悪性ではなさそう」と判断された場合に、実際に悪性ではなかった割合である陰性的中率は92%だった。一方、DWIBSで「悪性の可能性がありそう」と判断された場合に、実際に悪性だった割合である陽性的中率は93%だった。
この研究で重要とされたのは、DWIBSで「悪性ではなさそう」と判断された場合に、実際に悪性ではなかった割合が高かった点だ。マンモグラフィで疑わしい所見を指摘されると、多くの人は強い不安を抱く。もしDWIBSによって「悪性の可能性は低そうだ」と判断できる場面が増えれば、その後の不安や負担を減らす助けになる可能性がある。
もう一つ注目されたのが、検査にかかる時間の短さ。この研究では、DWIBSによる撮影は7分未満で行えるとされた。
画像を確認する時間も短かった。DWIBSでは、乳房全体の中に目立つ信号があるかどうかを比較的すばやく確認できる。研究では、読影時間は平均で約30秒だった。疑わしい場所がない場合には、3秒未満で確認できたと報告されている。
一方で、DWIBSで目立って見える場所が、すべて乳がんとは限らない。この点は、これまでの連載でも見てきた通りである。
今回の研究も50人を対象とした初期研究であり、結果は可能性を示すものと見るべきである。乳がん検診での役割を判断するには、その後の研究も併せて見る必要がある。
この論文は、DWIBSが乳がん検診の領域で関心を集め始めた経緯を知るうえで参考になる。
標準的な検診方法であるマンモグラフィには、痛みや被ばく、乳腺の状態によって見え方が左右されるといった課題がある。2015年のこの研究では、マンモグラフィで見つかった疑わしい病変に対し、造影剤を使わない短時間のMRIであるDWIBSが、どこまで評価の手がかりになるかが検討された。
つまりDWIBSは、マンモグラフィの弱点を補い得る検査として、早い段階から可能性が探られていたのである。引き続き連載では、乳がん検診におけるDWIBSの評価について見ていく。