研究

高齢者のうつ症状、健康寿命にどう影響するのか

男性は「無価値感」、女性は「不安感」が要介護・死亡リスクと関連

青空に向かって手をかざす高齢者の手元。
屋外で日差しを受ける高齢者の手。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

高齢者の抑うつ症状は、そのタイプによって要介護化または死亡のリスクとの関連が異なることが分かった。男性では「無価値感」、女性では「不安感」が強いほど、要介護化または死亡リスクが高かった。

東北大学と医薬基盤・健康・栄養研究所の研究グループが2026年5月19日に発表した。

抑うつ症状を4タイプに分類

緑の多い道を歩く高齢男性。
屋外を歩く高齢男性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 高齢者の抑うつ症状は、要介護化や死亡リスクと関連することが知られている。
  • 東北大学などは、仙台市鶴ヶ谷地区の70歳以上585人を約18年間追跡した。
  • 抑うつ症状を「無価値感」「不安感」「不幸感」「活力の低下」の4タイプに分類し、健康寿命との関連を調べた。

高齢者の抑うつ症状は、要介護化や死亡リスクと関連することが知られている。気分の落ち込みや意欲の低下が続くと、身体活動や社会参加が減り、心身の機能低下につながる可能性があるためだ。

一方で、抑うつ症状にはさまざまな側面がある。「自分には価値がない」と感じる無価値感、不安感、不幸感、活力の低下などだ。従来は、こうした症状をまとめて点数化し、抑うつ傾向があるかどうかを見ることが多かった。

研究グループは、仙台市鶴ヶ谷地区に住む70歳以上の高齢者585人を対象に、抑うつ症状と健康寿命との関連を調べた。2002年時点で、高齢者の抑うつ傾向を調べる15項目の質問票に答えてもらい、その後、約18年間にわたって要介護認定または死亡に至るまでの期間を追跡した。

この質問票の回答を詳しく分析したところ、抑うつ症状は主に「無価値感」「不安感」「不幸感」「活力の低下」の4タイプに分類された。今回の研究では、抑うつ症状の有無や総点数だけでなく、どのタイプの症状が強いかに注目した。

研究グループは、同じ抑うつ症状でも、どのタイプが強いかによって要介護化または死亡のリスクとの関連が異なるかを、男女別に解析した。

男性は無価値感、女性は不安感がリスク上昇

農作業をする高齢女性が、畑でくわを持って立っている様子。
畑で農作業を続ける高齢女性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 男性では、「自分には価値がない」と感じる無価値感が強いほど、要介護化または死亡リスクが高かった。
  • 女性では、不安感が強いほど、要介護化または死亡リスクが高い傾向が示された。
  • 高齢者の心の不調に向き合う際は、抑うつ症状の有無だけでなく、どのタイプの症状が強いかを見ることが重要になる。

解析の結果、男女で関連する症状のタイプが異なっていた。

男性では、「自分には価値がない」と感じる無価値感が強い人ほど、要介護化または死亡のリスクが高かった。リスクは約1.9倍で、男性では無価値感がその後の健康寿命と関係する可能性が示された。

一方、女性では不安感が強い人ほどリスクが高かった。こちらも要介護化または死亡のリスクは約1.9倍だった。女性では、不安の強さが、その後も自立した生活を続けられるかどうかと関係する可能性がある。

また、女性では「不幸感」が強い人ほどリスクが低いという結果も見られた。これは予想と異なる結果であり、理由はまだはっきりしていない。研究グループは慎重な解釈が必要だとしており、今後さらに検討が必要な結果といえる。

こうした男女差について、論文ではいくつかの可能性が示されている。

男性の無価値感については、退職後の社会的役割の変化や、自分の役割を見いだしにくくなることが関係している可能性があるという。女性の不安感については、高齢女性で不安症状と生活機能の低下が関連するという先行研究と一致するとしている。一方で、もともと要介護化のリスクが高まっていた人が、将来への不安を感じていた可能性もある。

女性の不幸感がリスク低下と関連した点は、解釈に注意が必要だ。論文では、「幸せではない」と感じることが、よりよい状態を求める行動につながった可能性や、生活満足度を低く答えやすい文化的背景が影響した可能性にも触れている。

高齢者の心の不調に向き合うときには、どのような気持ちが強いのかまでみることが重要になりそうだ。今後は、それぞれの症状に応じた支援が、要介護化の予防や健康寿命の延伸につながるかを確かめていく必要がある。

参考文献

高齢者の健康寿命延伸に新知見 抑うつ症状の「タイプ」が要介護・死亡リスクに影響か-「鶴ヶ谷プロジェクト」約18年の追跡研究より-(東北大学)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2026/05/press20260519-03-tsurugaya.html

Fukuhara H, Hozawa A, Nakaya N, Kogure M, Momma H, Nagatomi R. Disability-free survival by symptoms of depression in older adults: a historical cohort study from the Tsurugaya Project. J Psychiatr Res. 2026 Aug;199:243-251. doi: 10.1016/j.jpsychires.2026.04.031. Epub 2026 Apr 25. PMID: 42090983.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42090983/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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