ポイント
血液のDNAからがんの可能性を調べる検査では、白血球由来の変異が混じることもある。
ジョンズ・ホプキンス大学などは、変異ががん由来か白血球由来かを見分けるAIを開発。
リキッドバイオプシーのノイズを減らし、治療薬選びの誤りを減らせる可能性がある。
「AIはがんをどこまで早く見つけられるか」の連載では、画像診断や内視鏡検査でAI(人工知能)が診断を支援する研究を見てきた。
今回は、血液のDNAからがんの遺伝子変異を調べる検査の結果を、AIがより正確に読み解く研究を取り上げる。
米国のジョンズ・ホプキンス大学などの研究グループは、血液中で見つかった遺伝子変異が、がん由来なのか、白血球由来なのかを判定する機械学習モデルを開発し、2026年に報告した。
血液検査で見つかる変異はすべてがん由来とは限らない
血液検査やバイオマーカー解析を表す場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
リキッドバイオプシーでは、血液中のDNAからがんに関係する遺伝子変異を調べられる。
ただし血液中のDNAには、がん細胞由来だけでなく白血球由来のDNAも含まれる。
白血球由来の変異をがん由来と誤解すると、治療薬の選択を誤る可能性がある。
リキッドバイオプシーは、血液や尿などの体液に基づいてがんを含めた病気を調べる検査を指す。体への負担が小さく、がんの遺伝子情報を調べられる方法として注目されている。
今回の研究報告によれば、その中でも、血液中に流れ出たDNAを調べ、がんに関係する遺伝子変異を探すタイプのリキッドバイオプシーでは課題もあるという。
血液中のDNAには、がん細胞から出たものだけでなく、白血球など正常な血液細胞から出たものも含まれる。年齢を重ねると、白血球のもとになる細胞に遺伝子変異が起こり、その変異を持つ血液細胞が増えることがある。
この現象は「クローン性造血(クローナル・ヘマトポイエシス)」と呼ばれる。がんではない変化だが、白血球由来のDNAにも遺伝子変異が含まれるため、リキッドバイオプシーでは、がん由来の変異のように見えてしまうことがある。
問題は、血液中で変異が見つかったとき、それが本当にがん細胞から出たものなのか、白血球から出たものなのかを見分けるのが難しいことだ。がん由来ではない変異をがんの変異と誤って解釈すると、適さない分子標的薬を選んでしまう可能性がある。分子標的薬は、特定の遺伝子変異がある場合に効果が高まることが知られている。
研究グループが開発したのは、「plasmaCHORD(プラズマコード)」と呼ばれる機械学習モデルだ。血液中のDNA断片の長さや切れ方、変異の種類、患者の年齢などを組み合わせ、変異の由来を推定する。
がん細胞から出たDNAと白血球から出たDNAでは、血液中で断片化されたときの特徴が異なる。AIはその違いを手掛かりに、変異がどこに由来するのかを見分けようとする。
研究では、まず225人のがん患者から得られた426個の変異を使ってAIモデルを構築した。対象には、乳がん、大腸がん、食道がん、卵巣がん、肺がんなどの患者が含まれていた。
次に、別の医療機関の患者114人から得られた1418個の変異を使い、性能を検証した。この検証では、血液中のDNAだけでなく、腫瘍組織と白血球のDNAも調べた。これにより、それぞれの変異が本当にがん由来なのか、白血球由来なのかをあらかじめ確認し、AIの判定がどれだけ一致しているかを比べた。
治療薬選びの誤りを減らす可能性
AIを活用した医療データ解析を表す場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
AIは、変異ががん由来か白血球由来かを高い精度で判別した。
治療選択に関わる変異では、正しく見分けた割合が約48%から約83%に向上した。
検査結果の解釈を支え、がん由来ではない変異に基づく治療を避ける助けになる可能性がある。
その結果、AIは、変異ががん由来か白血球由来かを高い精度で見分けていた。学習に使ったデータでのAUCは0.94、別の患者集団では0.90だった。AUCは、がん由来と白血球由来をどれだけ正確に見分けられるかを示す指標で、1に近いほど判別性能が高い。
特に重要なのは、薬を選ぶ手掛かりになる遺伝子変異だ。血液中のDNA検査でこうした変異が見つかると、その変異に対応する分子標的薬が候補になることがある。
しかし、その変異が白血球由来であれば、がん細胞にその標的があるとは限らない。そこで研究グループは、治療選択に関わる遺伝子変異について、AIが由来を正しく見分けられるかを調べた。
この検証では、変異の由来を区別しない従来の読み方によって正しく判断できた割合は約48%だった。AIを使うと、がん由来か白血球由来かを正しく見分けた割合は約83%まで高まった。
実際の症例でも、AIが白血球由来と判定した変異は、後の検査でも白血球由来と確認された。がん由来ではない変異に基づく治療を避ける判断につながった。
AIは、がんを見つけるだけでなく、検査結果の解釈を支える可能性もある。今後は、がん種や検査方法が変わっても同じように役立つかを検証する必要がある。
参考文献
Machine Learning Model Improves Accuracy of Liquid Biopsy Results(Johns Hopkins Medicine)
https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/2026/06/machine-learning-model-improves-accuracy-of-liquid-biopsy-results
Canzoniero JV, Rabizadeh D, Ziakas I, Wehr J, Balan A, Jamali A, Landon BV, Sivapalan L, Scott S, Pereira G, Lam VK, Hann CL, Lovly CM, Tao J, Forde PM, Murray JC, Sausen M, Meijer GA, Vink GR, Fijneman RJA; MEDOCC Group; Velculescu VE, Phallen J, Scharpf RB, Anagnostou V. plasmaCHORD: A Machine Learning Approach to Distinguish Clonal Hematopoiesis-Derived Variants in Liquid Biopsies from Patients with Solid Tumors. Clin Cancer Res. 2026 May 1;32(9):1729-1744. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-25-0976. PMID: 42001480; PMCID: PMC13133610.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42001480/