世界

救急外来の血液検査でHIVを早期発見、約4年間で1900人の未診断感染者を確認、英国イングランド

治療につなげて感染予防にも期待、日本で検査機会を増やす仕組みを考えるヒントに

医師と看護師が、ベッド上の患者の腕を処置している様子。
救急外来などで患者の処置を行う医療スタッフ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 救急外来で行われるいつもの血液検査が、HIVの早期発見につながる可能性がある。

 英国イングランドでは、救急外来で採血を受ける患者を対象に、本人が拒否しない限りHIV検査を同時に行う取り組みが進められている。英国国立健康・ケア研究機構(NIHR)は、2026年6月、この仕組みにより約4年間で1900人の未診断感染者が見つかったと発表した。

救急外来の採血にHIV検査を追加

医療スタッフが、ストレッチャーに乗せた患者を病院の廊下で搬送している様子。
ストレッチャーで患者を搬送する医療スタッフ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • イングランドでは、HIV感染率が高い地域の救急外来で、採血が必要な成人にHIV検査を組み合わせる取り組みが行われている。
  • 本人が拒否しない限り検査するオプトアウト方式で、HIVに加えてB型肝炎、C型肝炎も同時に調べている。
  • 約4年間で未診断のHIV感染者1900人が見つかり、その多くは過去にHIV検査を受けた記録がなかった。

 HIVは、早く見つけて治療を始めれば、健康を保ちやすくなる。さらに、治療によって体内のウイルス量を十分に抑えられれば、他人への感染も防ぎやすくなる。

 イングランドでは2022年から、HIV感染率が高い地域の88施設で、救急外来の血液検査にHIV検査を組み合わせる取り組みが始まった。対象は、救急外来で採血が必要になった成人だ。本人が拒否しない限り、HIVに加えてB型肝炎、C型肝炎も調べる「オプトアウト方式」で実施されている。

 2026年までに、この取り組みによって、感染に気付いていなかった1900人のHIV感染者が見つかった。診断された人の93%には、それ以前にHIV検査を受けた記録がなかった。通常の検査機会では届きにくい人たちに、救急外来を通じて検査が届いたことになる。

 陽性と判定された人は専門医療につながり、抗HIV治療を受けることになる。現在の治療では、薬を続けてウイルス量が検出限界未満に抑えられた状態が続けば、性的接触による感染リスクは実質的にないとされる。早期診断は本人の健康を守るだけでなく、感染拡大を防ぐ対策にもなる。

日本でも検査機会は課題

病院内の窓に「EMERGENCY」と書かれた救急部門の表示。
救急外来を示す「EMERGENCY」の表示。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 救急外来でのHIV検査は、未診断の人を治療につなげ、HIV関連死亡や新たな感染を減らす可能性があると推計された。
  • イングランドでは2030年までに新たなHIV感染をなくす目標に向け、救急外来での検査拡大が進められている。
  • 日本で同じ方法を導入するには感染率や費用対効果の検討が必要だが、検査機会を増やす仕組みを考える参考になる。

 この取り組みは、医療費の面からも評価されている。Lancet HIVに掲載された分析では、最初に見つかった802人の感染者について、今後20年間で約187人のHIV関連死亡と28件の新たな感染を防げると推計された。

 HIV検査1回当たりの費用は約6ポンド。1ポンド215円で計算すると約1300円になる。多くの人に検査を行う必要はあるものの、未診断の人を見つけて治療につなげる効果を考えると、費用対効果は高いと評価された。

 この結果を受け、イングランドでは2030年までに新たなHIV感染をなくすことを目標に、救急外来での検査をさらに広げる計画が進んでいる。

 一方、日本の状況はイングランドとは異なる。英国保健安全庁によると、英国では2023年時点で約10万8000人がHIVとともに生活していると推計されている。日本では報告数は英国より少なく、人口当たりの感染規模も低いと見られる。それでも、日本でも感染に気付かず、エイズを発症して初めて診断される人はいる。今回の取り組みは、感染率が高い地域で救急外来を検査の入口にすることで、通常の検査では届きにくい人を見つけられる可能性を示した。

 日本で同じ方法をそのまま広げるべきかは、感染率や費用対効果を踏まえた検討が必要になる。ただ、症状が出る前に検査につなげる仕組みをどう作るかを考える上で、参考になる結果といえる。

参考文献

A&E blood-testing finds 2,000 unidentified HIV cases in first 4 years
https://www.nihr.ac.uk/news/ae-blood-testing-finds-2000-unidentified-hiv-cases-first-4-years

Walker JG, Baggaley RF, Myring G, Irvine MA, Asgharzadeh A, Laurence YV, Bell E, Schoemig V, Cross E, Allison S, Kundu B, McNaughton AL, Brown J, Cresswell D, van Halsema C, Hassan-Ibrahim MO, Roberts J, Ahmad S, Todd R, Heath R, Ward Z, Simmons R, May T, Hill-Tout R, Horwood J, Desai M, Vickerman P, Djuretic T, Hickman M, Mandal S. Cost-effectiveness of emergency department opt-out testing for HIV in England: a modelling study. Lancet HIV. 2026 Jun 25:S2352-3018(26)00109-8. doi: 10.1016/S2352-3018(26)00109-8. Epub ahead of print. PMID: 42349479.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42349479/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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