──マンモグラフィに超音波を併用することの意義は、早い段階で乳がんを見つけられるということになるのか。
原田氏:「早い段階で見つける」という言い方は分かりやすい一方で、少し慎重に使う必要があります。
長期的に見ると、超音波併用群では、その後、進行した状態で乳がんが見つかる人が少なくなりました。マンモグラフィだけでは見つけにくかった乳がんを、ステージII以上になる前に発見できた例があった可能性を示しています。
──今回の研究では、進行乳がんをどのように定義したのか。
原田氏:今回の研究では、進行乳がんをステージII以上と定義しました。
一般的な診療の場で「進行がん」と言うと、ステージIII以上を指すこともあります。ただ、検診で発見される乳がんでは、ステージIII以上の人は多くありません。しこりが大きい、リンパ節転移が多いといった状態で検診発見される乳がんは、それほど多くないわけです。
そのため、この研究では最初からステージII以上を進行乳がんとして定義しました。
──ステージIとステージIIの違いは、受診者にとってどのような意味を持つのか。
原田氏:ステージIとステージIIでは、治療の内容や負担が変わってくることがあります。
しこりが小さい段階で見つかれば、手術で切除する範囲を小さくできる可能性があります。一方、ステージIIになると、腫瘍の大きさやリンパ節転移、乳がんの性質などに応じて、再発を抑えるための薬物療法が必要になる場面が増えます。
例えば、抗がん剤が必要になる場合もあります。最近は高額な薬も増えていますので、患者さんの体への負担だけでなく、医療費への影響も大きくなります。
もちろん、早い段階で見つかれば必ず手術だけで終わるという単純な話ではありません。ただ、より早い段階で見つけられれば、治療の負担を抑えられる可能性があります。
──研究では、最初から進行乳がんを減らせるかどうかも調べる計画だったのか。
原田氏:はい。今回調べた「進行乳がんの累積罹患」は、研究の途中で追加したものではなく、研究開始時からあらかじめ定めていた評価項目の一つです。研究は、の中心となる評価項目とは別に確認する「副次評価項目」として設定していました。
──「進行乳がんの累積罹患」とは、どのような意味なのか。
原田氏:研究に参加した女性全体のうち、追跡期間中にステージII以上の乳がんと診断された人がどのくらい増えていったかを、時間の経過に沿って見た指標です。
単に、見つかった乳がんのうち進行乳がんが何割を占めたかを比べたものではありません。検診を受けた後も長く追跡し、進行した状態で乳がんが見つかる人が、マンモグラフィ+超音波の併用群と、マンモグラフィ単独群でどのくらい違ったかを比較しています。
──J-STARTでは、どのような流れで検診を行ったのか。
原田氏:参加者には、割り付けられた方法で初回検診を受けてもらい、2年後にもう一度、同じ方法で検診を受けてもらいました。日本の対策型検診が原則として2年に1回であることを踏まえた設計です。
2015年に発表した最初の論文では、主に初回検診の結果を分析しました。乳がんがある人を正しく見つける「感度」や、乳がんではない人を正しく「がんではない」と判断する「特異度」、乳がんの発見率などを比較しました。
──最初の論文では、どのような結果が示されたのか。
原田氏:超音波を併用すると、乳がんを見つける感度は91.1%となり、マンモグラフィ単独の77.0%より高くなりました。乳がんの発見率も、併用群が0.50%、マンモグラフィ単独群が0.32%で、併用群の方が高いという結果でした。
一方、精密検査を勧められる人も増えました。要精検率は、マンモグラフィ単独群の8.8%に対し、併用群では12.6%でした。その多くは最終的に乳がんと診断されないため、乳がんを多く見つけられる半面、追加検査を受ける人も増えるという利益と不利益の両方が示されました。
- 研究ではステージII以上を「進行乳がん」と定義し、追跡期間中に診断された人の割合を時間の経過に沿って比較した。
- 超音波併用により、乳がんを見つける感度は77.0%から91.1%へ、発見率は0.32%から0.50%へ上昇した。
- その一方で要精検率も8.8%から12.6%に上がり、追加検査を受ける人が増えるという不利益も確認された。
──今回の長期追跡では、その先を調べたということか。
原田氏:そうです。最初の検診で乳がんの発見数が増えたというだけでなく、その後、進行した状態で見つかる乳がんが減ったかどうかを確認しました。
検診では、単に多くのがんを見つければよいわけではありません。早期の乳がんを多く発見したことが、将来、進行した状態で見つかる乳がんを減らすことにつながったのかを見る必要があります。
今回、超音波併用群では、マンモグラフィ単独群よりもステージII以上の乳がんの累積罹患が低くなりました。発見数が増えただけではなく、進行した状態で診断される人が少なくなった点に、長期追跡の大きな意味があります。
──「進行乳がんのリスクが17%低下した」という結果を、どのように受け止めればよいのか。
原田氏:マンモグラフィ単独群と超音波併用群を長期間追跡して比べると、ステージII以上の乳がんと診断される可能性が、超音波併用群では相対的に17%低かったという意味です。
ただし、検診を受けた一人ひとりのリスクが必ず17%下がるということではありません。二つの集団を追跡期間全体で比較した結果です。
10年時点の進行乳がんの累積罹患率は、超音波併用群が0.64%、マンモグラフィ単独群が0.79%でした。差そのものは大きく見えないかもしれませんが、症状のない多くの女性を対象にする検診では、集団全体として進行乳がんを減らせることに意味があります。
──超音波を併用した効果は、検診後すぐに現れたのか。
原田氏:差が現れ始めたのは、検診開始から約4年後です。その後、約8年まで差が広がり、それ以降はおおむね一定に保たれました。
初回検診で超音波を併用したことによって、マンモグラフィだけでは見つけにくかった乳がんが、より早い段階で発見された可能性があります。その結果、数年後に進行した状態で見つかる乳がんが少なくなったと考えられます。
──進行乳がんを減らすことは、死亡率の低下にもつながる可能性があるのか。
原田氏:検診の最終的な目的は、乳がんによる死亡を減らすことです。ただ、死亡率への効果を直接示すには、さらに長期間の追跡が必要になります。
乳がんでは治療も進歩していますので、検診による効果だけを死亡率から評価するのは簡単ではありません。その中で、進行した状態で見つかる乳がんの累積罹患が低かったことは、死亡率の低下につながる可能性を考える上で重要な指標になります。
今回示されたのは、マンモグラフィに超音波を併用することで、進行乳がんの累積罹患が低くなるという結果です。40代の乳がん検診の方法を考える上で、重要な科学的根拠になると考えています。
──検査は多いほどよいと理解する人もいるかもしれない。
原田氏:そうではありません。超音波併用には、乳がんを多く見つけられるという利益があります。一方で、乳がんではない人が精密検査を勧められる偽陽性も増えます。追加検査に伴う不安や、身体的、時間的、経済的な負担も考える必要があります。
検診は症状のない人を対象とし、受ける人の多くは乳がんではありません。どの年代に、どの検査を組み合わせると利益が不利益を上回るのかを、科学的に検証することが大切です。
──40代では、超音波併用の意義がかなり明確になったと見てよいのか。
原田氏:40代におけるマンモグラフィへの超音波の上乗せ効果は、今回の研究で示されたと考えています。
マンモグラフィ単独に比べて、より多くの乳がんが発見され、長期追跡では、進行した状態で見つかる乳がんの累積罹患が低くなりました。
ただし、これを日本の乳がん検診の標準にするかどうかは、私たち研究者だけで決めることではありません。国が、効果、不利益、費用、実施体制などを総合的に見て判断することになります。(続く)