研究

大腸がんの肝転移を予測する目印になる可能性、GATA6に注目

GATA6の低下によって大腸がん細胞が転移しやすい状態になる可能性を報告

腹部に手を当てた人物と、腸の炎症や異常を示すイメージ図。
大腸がんでは、がん細胞の性質の変化が肝臓への転移に関わる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 大腸がんが肝臓へ転移する際、がん細胞そのものが性質を変え、転移しやすい状態になる可能性が明らかになった。

 米ワイル・コーネル・メディシンとマサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームが2026年6月に報告した。

 転移のリスクを調べる目印になる可能性がある。

細胞の性質を保つ「GATA6」に注目

腹部に手を当てる人物と、胃腸の模式図が重ねられた医療イメージ。
大腸がんの肝転移リスクを見極める目印として、GATA6の低下が注目されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 研究チームは、腸の細胞としての性質を保つ働きに関わるタンパク質「GATA6」に注目した。
  • 肝臓へ転移した大腸がんではGATA6が少なく、GATA6が少ない患者ほど経過が悪い傾向も見られた。
  • GATA6が減ると、がん細胞が大腸の細胞としての性質を失い、肝臓へ転移しやすい状態になる可能性が示された。

 大腸がんでは、肝臓への転移が治療を難しくする大きな要因になる。

 ただし、がん細胞がどのようにして転移する力を身につけるのかは、十分には分かっていない。

 研究チームが注目したのが、「GATA6」というタンパク質だ。GATA6は、腸の細胞が本来の性質を保つために、さまざまな遺伝子の働きを調整している。

 問題になるのは、このタンパク質が少なくなるときだ。

 マウスや大腸がん患者の組織を調べると、肝臓へ転移したがんではGATA6が少なくなっていた。また、GATA6が少ない患者ほど、その後の経過が悪い傾向も見られた。

 そこで研究チームは、肝臓へ転移した大腸がんの細胞を培養し、マウスに移植して、転移に至るまでの変化を詳しく調べた。

 その結果、GATA6が減ると、がん細胞は大腸の細胞としての性質を失い、別の性質へ変わりやすい状態になることが示された。こうした変化によって、がん細胞が大腸から離れて肝臓へ移り、新たな腫瘍を作りやすくなる可能性がある。

がん細胞が転移しやすい状態に

大腸の一部と腫瘍を示した人体内部の3Dイラスト。
大腸がんの肝転移では、がん細胞が新たな変異を得るだけでなく、細胞の性質そのものを変えることが関係する可能性が示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • マウスではGATA6を働かなくすると、元の腫瘍の大きさは大きく変わらない一方、肝転移が増えた。
  • 逆にGATA6の働きを戻すと転移する力が低下し、細胞の性質の変化が転移に重要な可能性が示された。
  • 将来はGATA6が肝転移リスクを見極める目印や、転移を防ぐ治療の標的になる可能性がある。

 マウスの実験では、GATA6が働かないようにすると、元の大腸にあるがんの大きさには大きな変化がなかった一方で、肝臓への転移は増えた。

 逆に、GATA6の働きを戻したり、それに関係する仕組みを活性化したりすると、がん細胞が転移する力は低下した。

 この結果から研究チームは、大腸がんの転移には、新たな遺伝子変異が加わることだけでなく、がん細胞そのものが「転移しやすい性質」に変わることが重要ではないかと考えている。

 将来、がん細胞のGATA6を調べることで、肝臓へ転移しやすい大腸がんを見分けるための目印になる可能性がある。また、がん細胞が転移しやすい状態へ変わるのを防ぐことが、新たな治療法につながる可能性もある。

 今後は、人でGATA6が肝転移の予測に使えるか、転移を防ぐ治療につなげられるのかを確かめる必要がある。

参考文献

Colon Cancer Cells May Change Identity to Metastasize(Weill Cornell Medicine)
https://news.weill.cornell.edu/news/2026/06/colon-cancer-cells-may-change-identity-to-metastasize

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

胸部X線画像を表示したモニターを前に、医師が診断AIの解析画面を確認している様子。
画像診断AIは、胸部X線やCT、MRIなどの検査画像から異常が疑われる症例を拾い上げ、医師の読影を支援する。画像はイメージ。

診断AIは「導入して終わり」ではない、マウントサイナイなど米12医療グループが検証へ

画像検査が増える一方で、診断する医師の負担も重くなる。こうした課題に対し、AIを各医療機関が個別に導入するだけでなく、複数の大規模医療グループが共同で効果や…

医師らが、人体の血管や骨格を映したデジタル画像を見ながら解析している。
AIと血液中の多様な生体情報を組み合わせることで、循環器病のリスクをより詳しく評価できる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

心臓や血管の病気6種類、血液中のタンパク質などをAI解析しリスク予測を改善

- 従来の循環器病のリスク予測は、年齢や血圧などが中心で、一人ひとりの変化を十分に捉えにくい課題。 - AIで血液中の2920種類のタンパク質と168種類の…

農地と集落が広がる田園地帯の風景。
農薬への曝露は、農地周辺の地域環境や住民の健康リスクを考える上でも重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

住む地域の環境とがんリスクに関連、複数の農薬の影響を受けやすい地域で平均150%高く

農業で使われる複数の農薬への環境曝露が多い地域では、がんの発症リスクも高い可能性があることが、ペルー全国を対象とした研究で示された。フランスのパスツール研究…

室内で電子たばこを手に持ち、口元に近づけている人。
電子たばこ使用では、DNA損傷や酸化ストレス、口や呼吸器の炎症など、がんにつながり得る変化が報告されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

電子たばこ、肺がんや口腔がんを引き起こす可能性

電子たばこは、肺がんや口腔がんを引き起こす可能性が高い――。世界各地で行われた研究を幅広く検討した結果から、こうした結論が示された。オーストラリアのニューサ…

夕焼けの空の下に広がるシドニーの港とオペラハウス、ハーバーブリッジ。
オーストラリアでは、子ども向けの不健康な食品や飲料の広告規制を求める公衆衛生団体の動きが強まっている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

オーストラリアで子ども向け食品広告の規制を求める動き

子どもが日常的に目にする「ジャンクフード」の広告を減らし、将来の肥満やがんリスクの低減につなげようという動きがオーストラリアで強まっている。

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す