日本人の大腸がんの半数近くで、一部の大腸菌が作る毒素によってDNAが傷つけられたことを示す特徴的な痕跡が確認された。特に40歳未満で発症した大腸がんでは、その割合が約70%に達していた。
大阪大学と東京大学などの研究グループが、東京と大阪の大腸がん患者200例の全ゲノムを解析して明らかにした。研究成果は2026年8月10日、科学誌「Nature Genetics」に発表された。
「傷跡」をがんのDNAから発見
一部の大腸菌が作るコリバクチンは、大腸の細胞のDNAに特徴的な傷跡を残すことが知られている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 日本人の大腸がん患者200例を全ゲノム解析し、44.8%でコリバクチンによるDNA損傷に特徴的な痕跡を確認した。
- 痕跡はAPCやBRAF、TP53など大腸がんに重要な遺伝子にも見つかり、発がんの早い段階から関与する可能性が示された。
- 一部では発がんにつながる最初期の遺伝子変化が10歳未満で生じていた可能性もあり、幼少期からの影響が示唆された。
大腸がんは、細胞のDNAにさまざまな変化が積み重なることで発生する。食生活や生活習慣との関係が知られている一方、腸内細菌が発がんに関わる可能性にも注目が集まっている。
今回焦点となったのが、一部の大腸菌が作る「コリバクチン」という毒素だ。コリバクチンは大腸の細胞のDNAを直接傷つけ、特有の遺伝子変化を残すことが知られている。
DNAには、紫外線やたばこなど、傷を付けた原因によって異なる特徴的な痕跡が残る。コリバクチンについても特有のパターンがあり、がん細胞のDNAを詳しく調べることで、過去にこの毒素の影響を受けた可能性を推定できる。
研究グループは、国立がん研究センター中央病院と大阪大学医学部附属病院の大腸がん患者200例について、DNA全体を調べる全ゲノム解析を行った。
その結果、44.8%の大腸がんで、コリバクチンによるDNA損傷に特徴的な痕跡が確認された。
さらに、この痕跡は、大腸がんの発生に重要なAPCやBRAF、TP53といった遺伝子にも見つかった。中でもAPCは、大腸がんができる初期に異常が起こることが多い遺伝子で、コリバクチンが発がんの早い段階から関わっている可能性が示された。
研究では、こうした大腸がんの一部で、発がんにつながる最初期の遺伝子変化が10歳未満で既に生じていた可能性も示された。腸内細菌の影響が幼少期から始まり、長い年月をかけて大腸がんにつながっている可能性があるという。
「細菌を調べて予防」の可能性も
若年発症の大腸がんでは、腸内細菌由来の毒素によるDNA損傷の痕跡が高い割合で確認された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 40歳未満で発症した大腸がんでは、約70%にコリバクチンによるDNA損傷の痕跡が確認された。
- 若年発症ほどコリバクチンとの関連が強く、大腸がんには腸内細菌などが関わる複数の発がん経路がある可能性が示された。
- 将来は原因菌の検出や除菌、便を使ったリスク評価への応用が期待されるが、除菌による予防効果はまだ確認されていない。
年齢別に見ると、コリバクチンとの関連は若い患者ほど強かった。
40歳未満で発症した大腸がんでは、約70%にコリバクチンによるDNA損傷の痕跡が確認された。一方、年齢が高くなるにつれて、その割合は低下していた。
さらに、この痕跡は1965年以降に生まれた患者で多く見られた。
世界的に若い世代の大腸がんが増えている中で、腸内細菌がその一部に関わっている可能性を示す結果となった。
研究グループは腸内細菌全体についても解析し、大腸がんを腸内細菌の特徴から4つのタイプに分類できることを明らかにした。
ただし、コリバクチンを作る大腸菌そのものは便の中では量が少なく、便中の腸内細菌を幅広く調べる解析では見つけにくいという。
今回の研究から、大腸がんは一つの原因だけで起こるのではなく、コリバクチン産生大腸菌が関わるタイプや、それ以外の腸内細菌や要因が関わるタイプなど、複数の発がん経路がある可能性が見えてきた。
今後は、コリバクチンを作る大腸菌の検出や感染経路の解明、除菌、便を使った大腸がん発症リスクの評価などにつながる可能性がある。研究グループは、胃がんにおけるピロリ菌対策のように、細菌への対策によって一部の大腸がんを予防する方法の開発も期待している。ただし、コリバクチン産生大腸菌を除菌することで大腸がんを予防できることが確認されたわけではなく、実用化には今後の研究が必要となる。