心臓や血管の病気は、発症する前にリスクの高い人を見つけ、生活改善や治療につなげることが重要だ。ただ、現在の予測では年齢や血圧、喫煙、病歴などが中心で、体の中で起きている複雑な変化までは十分に捉えにくい。
そうした中で、血液中の数千種類のタンパク質や代謝物をAI(人工知能)でまとめて解析し、6種類の循環器病の将来リスクを予測する方法が開発された。
香港大学や天津医科大学などの研究チームが2026年2月に報告した。
AIで大量の情報を組み合わせて捉える
血液検査で得られる情報をAI解析し、心臓や血管の病気のリスク評価に役立てる研究が報告された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 従来の循環器病リスク予測は年齢や血圧、喫煙などが中心で、体内の複雑な変化や個人差を十分に捉えにくい課題がある。
- 研究チームは、血液中の168種類の代謝物と2920種類のタンパク質をAIに学習させ、それぞれの病気に特徴的な組み合わせを解析した。
- 冠動脈疾患や脳卒中、心不全など6種類の循環器病について、一人ひとりの将来リスクをスコアとして示した。
循環器病の予防では、誰が将来発症しやすいのかを早く見つけることが大きな課題となる。
現在は、年齢、性別、血圧、喫煙、糖尿病などを組み合わせて、心臓や血管の病気になる危険性を予測するアプローチが一般的だ。ただ、循環器病には遺伝、生活習慣、環境など多くの要因が複雑に関係しており、こうした情報だけでは個人差を十分に捉えられないことがある。
遺伝情報を使ったリスク予測も研究されている。生まれ持った遺伝的な特徴は基本的には変化しない。
研究チームが着目したのは、血液中のタンパク質や代謝物だ。これらは炎症や血液凝固、血管の状態、脂質の代謝など、その時点で体の中で起きている変化を反映する。こうした情報を加えることで予測を改善できると考えた。
研究チームが使ったのがAIだ。英国の大規模研究「UKバイオバンク」のデータを使い、168種類の代謝物と2920種類のタンパク質をそれぞれAIに学習させた。血液から得られる数百から数千種類もの情報について、複雑な関係をAIで捉えることを試みた。
予測の対象としたのは、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、心房細動、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症の6種類だ。AIは大量の血液データから、それぞれの病気に特徴的な組み合わせを探し、一人ひとりのリスクをスコアとして示した。
AIの役割は単に検査項目を増やすことではない。人が一つずつ判断するのが難しい膨大な血液データをまとめ、「この人はどの循環器病に注意が必要か」という形に整理することにある。
6種類の病気を同時に予測
血液中のタンパク質や代謝物を解析し、循環器病の将来リスクを予測する研究が進んでいる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- タンパク質を使ったプロスコアは6疾患でC-index 0.69~0.82となり、代謝物や遺伝情報だけのスコアを上回った。
- 年齢や血圧など従来の情報にタンパク質や代謝物の情報を加えると、すべての対象疾患で予測性能が改善した。
- 最大15年先の発症リスク予測を改善できる可能性が示され、症状が出る前から高リスクの人を見つける手法として期待される。
研究チームが開発したのが「カーディオミックスコア(CardiOmicScore)」だ。解析では、タンパク質から算出した「プロスコア(ProScore)」と、代謝物から算出した「メトスコア(MetScore)」のいずれも、将来の循環器病リスクを見分ける力を示した。
特にタンパク質を使ったプロスコアの予測性能は高く、6種類の病気で、予測性能を示すC-indexは0.69~0.82だった。C-indexは1に近いほど、発症リスクを見分ける性能が高いことを意味する。代謝物を使ったメトスコアは0.64~0.74で、遺伝情報だけを使ったリスクスコアの0.52~0.60を上回った。さらに、年齢や血圧、生活習慣など従来の情報にこれらを加えると、すべての対象疾患で予測性能が改善した。
研究では、こうした血液の情報を使うことで、最大15年先の循環器病の発症リスクについても、予測を改善できる可能性が示された。
特徴的なのは、一つの病気だけを予測するのではなく、同じ血液データから6種類の循環器病を同時に評価できる点だ。循環器病は一人の患者に複数起こることも珍しくないため、それぞれ別々に評価するより、一度のデータから複数のリスクを見極められることには利点がある。
また、従来から血液検査の指標として使われているNT-proBNPなど、一つの指標だけを使った場合より、多数のタンパク質をまとめたプロスコアの方が高い予測性能を示した。研究チームは、多数のタンパク質を調べることで、炎症や血液凝固、血管の働きなど幅広い体内の変化を捉えられる可能性を指摘している。
将来、こうした方法が実用化されれば、症状が出る前からリスクの高い人を見つけ、生活習慣の改善や検査、治療をより個人に合わせて検討することにつながる可能性がある。
一方、今回の研究は英国のUKバイオバンクを使ったもので、参加者の多くは欧州系だった。別の独立した集団での検証も、まだ行われていない。今後、さまざまな人種や地域で性能を確かめる必要があるが、血液中の多くの情報とAIを組み合わせて循環器病のリスクを早い段階から捉える手法として注目される。