大腸がん検診では、便潜血検査を受けるだけでは十分ではない。陽性となった人を大腸内視鏡などの精密検査につなげることで、がんや前がん病変の発見につながる。
第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会のパネルディスカッション「わが国の大腸がん対策における人間ドック・健診の果たすべき役割と展望」では、この「検診のその後」をどう改善するかが大きなテーマになった。
さらに、便潜血検査では見つからない病変に対し、人間ドックで大腸内視鏡やCTコロノグラフィなどをどう活用するかについても議論された。
便潜血陽性を「その場で次の検査」につなげる
熊本市で開幕した第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場。(写真:編集部)
- 便潜血検査で陽性となっても、精密検査の受診率は約55%にとどまり、検診後の受診につなげることが課題となっている。
- 当日の大腸内視鏡予約やWeb予約、未受診者への電話・郵便・デジタルでの働きかけなど、受診までの手間を減らす工夫が紹介された。
- 健診結果を返して終わるのではなく、必要な人を実際の精密検査までつなげることが人間ドックや健診施設の重要な役割となる。
国が推奨している対策型がん検診は、多くの人の死亡を減らすことを目的に、科学的根拠のある検査を行うものだ。一方、人間ドックなどの任意型検診は、個人のリスクや希望に応じて検査を選ぶことができ、対策型検診とは異なる検査が選択されることもある。
現在、日本の対策型大腸がん検診では、40歳以上を対象に便潜血検査が行われ、陽性となった場合には精密検査を受ける流れが基本になる。ところが、検査で陽性となっても、その後の精密検査を受けない人が少なくない。
講演では、精密検査の受診率が約55%にとどまるという数字が示され、検診の効果を十分に生かせていない現状が指摘された。
そこで複数の施設から紹介されたのが、結果を伝えて終わるのではなく、便潜血検査で陽性となった人を、その場で次の受診につなげる仕組みだった。
岡山市の淳風会健康管理センターでは、便潜血陽性が分かった人に当日受診を勧め、その場で大腸内視鏡を予約する。東京都大田区の大森赤十字病院でも、健診終了時に陽性が分かれば院内での受診を勧め、Web予約も活用している。結果説明から精密検査までの手間を減らし、途中で受診から離れてしまう人を少なくする狙いだ。
筑波記念病院・つくばトータルヘルスプラザの池澤和人氏は、精密検査を受けていない人への能動的な受診勧奨と追跡管理を重視する。電話や郵便だけでなく、デジタル技術を使って、より早く働きかける必要性を指摘した。
静岡県掛川市の中東遠総合医療センターでは、病院の診療機能と人間ドックを連携させた。既存の設備を活用して健診・検査枠を広げ、結果を早く返して精密検査につなげる。便潜血検査を受けていない人へのフォローも強化し、精密検査の受診率向上につなげている。
方法は異なるが、共通するのは「要精密検査」と結果を返して終わらせないことだ。当日の予約やWeb予約、未受診者への働きかけなどによって、検診から精密検査までの段階をできるだけ減らす。必要な人を実際の受診までつなげることが、人間ドックや健診施設の重要な役割として示された。
便潜血で拾えない病変をどう見つけるか
大腸がん検診などで用いられる便検査キット。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 便潜血検査は大腸がん死亡を減らす根拠がある一方、陰性でも大腸がんや腺腫などの病変を完全には否定できない。
- 人間ドックでは、全大腸内視鏡やCTコロノグラフィ、AIによるリスク層別化を組み合わせ、便潜血で拾いにくい病変を補う試みが進んでいる。
- 内視鏡やCTCを全員に一律で行うのではなく、負担や医療資源を考えながら、リスクの高い人を適切な検査へつなげることが重要となる。
もう一つの大きなテーマは、便潜血検査にも限界があることだった。
便潜血検査は、大腸がんによる死亡を減らす科学的根拠が確立した検査であり、現在の対策型検診の基本になっている。一方で、陰性であれば大腸に重要な病変がないと断定できるわけではない。
パネルでは、便潜血陰性の人からも大腸がんや神経内分泌腫瘍、腺腫などが見つかった施設データが紹介された。
宇都宮記念病院総合健診センターでは、便潜血検査の結果にかかわらず全大腸内視鏡を受けた約1000人を分析した。腺腫発見率(ADR)は38.2%で、早期大腸がんが6例見つかった。また、便潜血陰性者からも大腸がんや神経内分泌腫瘍が確認された。便潜血検査だけでは拾えない病変を、人間ドックで内視鏡を行うことで見つけられる可能性が示された。
ただし、これは「全員が毎年内視鏡を受ければよい」という話ではない。内視鏡には前処置や検査そのものの負担、偶発症の可能性があり、検査を行える医療資源にも限りがある。討論でも、受診者から毎年の内視鏡を希望される場合がある一方、3年、5年といった適切な検査間隔をどう設定するかは課題として挙げられた。
別のアプローチを示したのが長野赤十字病院だ。人間ドックのデータをAIで解析し、年齢や肥満、血液検査などから大腸病変のリスクを層別化し、その日のうちに次の検査につなげる仕組みが紹介された。便潜血検査とAIによるリスク評価を組み合わせ、QRコードなどを使って受診行動を促す。ただし、現時点では大腸がん症例そのものが十分ではなく、主にポリープのリスクを評価している段階で、今後は外部施設での検証が必要になるという。
さらに、CTコロノグラフィ(CTC)を人間ドックのスクリーニングに活用する取り組みも報告された。済生会熊本病院予防医療センターでは、2010~2024年度に7571人がCTCを受け、要精密検査率は8.6%、精密検査受診率は91.7%、大腸がんは25例(0.33%)見つかった。CTC導入によって全大腸内視鏡が減ることも想定されたが、実際には内視鏡件数は増えていた。CTCは内視鏡を単純に置き換えるのではなく、病変を拾い上げて必要な人を内視鏡につなげる役割も考えられる。
国の指針では精密検査法を規定しない方向に
厚生労働省や環境省が入る中央合同庁舎の外観。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 対策型検診では便潜血検査を基本としつつ、人間ドックなどの任意型検診では全大腸内視鏡やCTCを活用する余地がある。
- CTCは比較的大きな病変の検出に有用とされる一方、表面型病変を拾いにくく、大腸内視鏡を完全に置き換えるものではない。
- 今後は国の指針で精密検査法を細かく規定せず、専門学会のマニュアルなどに委ねる方向も示されている。
こうした発表を受け、最後に特別発言を行ったのざき消化器IBDクリニック(熊本県益城町)の野﨑良一氏は、対策型検診と人間ドックなどの任意型検診を分けて考える必要性を指摘した。
現在の対策型大腸がん検診では便潜血検査が基本となっている。死亡率を下げる科学的根拠が確立している一方、便潜血検査には見逃しがあり、特に小さな病変を拾いにくいという限界がある。野﨑氏は、対策型検診では便潜血検査を基本としながら、任意型検診では感度も重視し、全大腸内視鏡を選択肢として活用する余地があるとの考えを示した。
CTCについても、人間ドックでさらに導入してよいのではないかとの考えを示した。比較的大きな病変では高い検出性能が期待できる一方、表面型の病変を拾いにくいという弱点もあり、大腸内視鏡を完全に置き換えるものではない。
さらに野﨑氏は、精密検査を巡る制度の変化にも言及した。現在の厚生労働省の指針には精密検査としてCTCの記載がない一方、日本消化器がん検診学会ではCTCを精密検査の選択肢として位置付けてきた。今後、国の指針では具体的な精密検査法を細かく規定せず、専門学会のマニュアルなどに委ねる方向も示されている。
今回の議論から見えてくるのは、便潜血検査を否定するのではなく、その効果を最大限に生かしながら、限界をどう補うかという方向性だ。まず検診を受けてもらい、陽性なら確実に精密検査へつなぐ。その上で、人間ドックでは個人のリスクや希望に応じて、全大腸内視鏡やCTC、AIによるリスク層別化なども活用し、便潜血検査だけでは拾いにくい病変をどう見つけるかを考える。
大腸がん検診を「便潜血検査をして結果を返すだけの仕組み」から、「必要な人を適切な検査まで確実につなげる仕組み」へ変えていくことが、人間ドック・健診に求められる役割として浮かび上がった。