健診で「肝機能の数値が少し高い」と言われても、そのままにしている人は少なくない。一方で、血液検査の数値が大きく外れていなくても、脂肪肝や肝臓の線維化が進んでいることがある。
第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会では、日本肝臓学会との共催で「肝疾患を健診からどう拾い上げるか」をテーマにシンポジウムが開かれた。
議論の中心になったのは、ウイルス性肝疾患の比重が低下し、肥満や糖尿病などに関連するMASLDやアルコール関連肝疾患の重要性が高まる中で、健診からリスクの高い人をどう見つけ、次の受診や生活改善につなげるかという問題だった。
「ALT 30超え」を、肝疾患に気づくきっかけに
熊本市で開幕した第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場。(写真:編集部)
- 肝硬変の原因はウイルス性からアルコール関連やMASLDなど非ウイルス性へ移りつつあり、健診での拾い上げが重要になっている。
- 日本肝臓学会は「ALTが30U/Lを超えたら受診」を一つの目安としているが、30以下でも線維化が進んでいる場合がある。
- ALTだけでなく、FIB-4、血小板数、年齢、糖尿病や肥満などを組み合わせて、高リスク者を専門医につなぐことが重要となる。
最初に全体像を示したのは、北海道大学の坂本直哉氏だった。
肝硬変の原因は大きく変わってきている。以前はB型、C型肝炎などのウイルス性肝疾患が中心だったが、2018~2021年に診断された肝硬変およそ1万5000例では、2018~2021年に新たに診断された肝硬変1万5517例では、アルコール関連が35.4%と最も多く、C型肝炎関連23.4%、非アルコール性肝炎であるNASH 14.6%、B型肝炎関連8.1%だった。
こうした変化の中で重要になっているのが、肥満、糖尿病、脂質異常症などと関係するMASLD(マッスルディー)だ。健診や人間ドックを受ける人のおよそ4人に1人が該当する可能性があり、国内では約2000万人規模とみられることも紹介された。
坂本氏が強調したのが、日本肝臓学会の「奈良宣言2023」で示された「ALTが30U/Lを超えたら、まずかかりつけ医を受診する」という考え方だ。
ALTは肝臓の状態を見る代表的な血液検査の一つだ。従来は30を少し超えた程度では「軽い異常」と受け止められやすかったが、奈良宣言では、慢性肝疾患に気づくきっかけとして、この段階から原因を確認することを勧めている。
ただし、「ALTが30を超えれば病気、30以下なら安心」という単純な話ではない。
久留米大学の川口巧氏は、ALTを入口として使う意義を示しながら、ALTが30以下でも肝臓の線維化が進んでいる人がいることを指摘した。特に高齢者や2型糖尿病、肥満などの代謝異常がある人では注意が必要になる。
そこで利用されるのが「FIB-4インデックス」だ。年齢、AST、ALT、血小板数という、健診で一般的に測定される項目から、肝臓の線維化リスクを推定する。
川口氏は、ALTだけで判断するのではなく、FIB-4や血小板数、年齢、糖尿病などを組み合わせて、よりリスクの高い人を専門医につなぐ必要性を説明した。FIB-4は1.3以上が線維化リスクをさらに評価する一つの目安となり、2.67を超える場合は専門医への紹介が推奨される。ただし、FIB-4は年齢の影響を受け、66歳以上では異なる基準が用いられる。一方で、年齢が計算に入るため、高齢者では値が上がりやすいという特徴もあり、一つの数値だけで判断しないことが重要になる。
血液検査が正常でも脂肪肝、見つけた後は生活改善へ
「人生のそばに予防医療を」をテーマに開かれた第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会。(写真:編集部)
- ASTやALTが正常でも脂肪肝がある人は少なくなく、腹部超音波を組み合わせることで肝疾患を拾いやすくなる可能性がある。
- 健診で肝機能異常や脂肪肝が見つかった後は、減量、運動、間食や飲酒の見直しなど具体的な生活改善につなげることが重要になる。
- FIB-4だけで判断せず、画像検査や肥満、糖尿病、飲酒なども含めて評価し、高リスク者は専門医、低~中リスク者は継続フォローにつなげる。
血液検査だけでは拾いきれない肝疾患があることを示したのが、虎の門病院付属健康管理センターの荒瀬康司氏だった。
同センターでは、人間ドック受診者のほぼ全員に腹部超音波検査を実施している。脂肪肝の割合は長期的に増えており、男性では1997年の約3割から2020年には約4割、女性では約1割から約2割へ上昇していた。
同氏によれば、初回人間ドック受診男性の約3万6000人を調べると、血液検査と腹部超音波を合わせて約4割に何らかの肝関連異常が見つかった。このうち最も多かったのは「肝酵素は正常だが、超音波では脂肪肝がある」人で、肝関連異常があった人の約半数を占めた。
血液検査のASTやALTが正常でも、脂肪肝がないとは言い切れない。人間ドックでは腹部超音波なども組み合わせることで、MASLDにつながる脂肪肝などを拾いやすくなる可能性が示された。
一方、見つけた後をどうするかを具体的に示したのが、佐々木研究所附属湘南健診センターの松浦知和氏だった。同センターでは、健診で肝機能異常や脂肪肝が見つかった人に対し、飲酒、間食、運動不足などを確認し、生活習慣の改善につなげている。
象徴的だったのが「まず2kg減らす」という目標だ。最初から大幅な減量を求めるのではなく、実行しやすい目標から始める。実際に、2kg程度の減量で肝機能が改善したMASLDの例も紹介された。
松浦氏はFIB-4について、FIB-4は年齢の影響を受けるため、若い人では線維化リスクを過小評価する可能性にも触れた。FIB-4だけで「低リスク」と決めるのではなく、ALTや画像、肥満、糖尿病などを合わせて判断する必要があるという。
討論ではアルコールについても議論された。現在は、代謝異常に一定量の飲酒が重なるMetALD(メットエーエルディー)という新しい分類も導入されている。肝疾患のリスクを考えれば飲酒量を減らすことが重要だが、現実にはすべての人がすぐに断酒できるとは限らない。そのため、「断酒」だけでなく「減酒」も実際の支援として重要になっていることが示された。
4人の発表を踏まえると、健診でALTが30U/Lを超えた人に気づいてもらい、原因を調べ、必要に応じてFIB-4や血小板数、腹部超音波などで評価し、糖尿病や肥満などの代謝リスクも確認する。その上で、高リスクなら肝臓専門医につなぎ、低~中リスクでも生活習慣の改善と継続的なフォローを行う、という流れが見えてくる。
これからの健診では、肝機能検査の「異常」「正常」を知らせるだけでは足りない。将来、肝硬変や肝がんにつながる可能性のある人を早い段階で見つけ、次の行動につなげることが、より重要になりそうだ。