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AMEDが目指す「攻めの予防医療」、がんになる前から治療後まで先回りして対策 中釜斉理事長が解説

体細胞モザイクによる発症リスク評価、マンモ+超音波による早期発見、血液で再発の兆候を捉える研究も 第64回日本癌治療学会学術集会

第64回日本癌治療学会学術集会で「攻めの予防医療」について講演する、日本医療研究開発機構(AMED)理事長の中釜斉氏。
日本医療研究開発機構(AMED)理事長の中釜斉氏が、がんの発症前から治療後までを視野に入れた「攻めの予防医療」について講演。遺伝情報や健康状態の変化を生涯にわたって分析する「精密予防」の研究の方向性を解説した。(写真:編集部)

 高市政権が掲げる「攻めの予防医療」。がんの分野でも、遺伝情報や健康状態の変化を生涯にわたって分析し、発症リスクが高まる時期を捉えて先回りする「精密予防」の研究が進む。

 2026年10月24日、神戸市で開催された第64回日本癌治療学会学術集会の国際対がん連合(UICC)との合同シンポジウム「がんの死亡率低減を目指した攻めの予防医療」では、日本医療研究開発機構(AMED)の中釜斉理事長が、発症予防から早期発見、治療後の再発対策までを視野に、研究支援の現状と今後の方向性を解説した。

発症を防ぐ一次予防から再発を防ぐ三次予防まで研究支援

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)
  • がんの発症予防、早期発見・早期治療、治療後の再発予防という3つの段階を視野に、AMEDが研究を支援。
  • 頬の細胞の遺伝子変化から食道がんのリスクを調べる研究や、乳がん検診に超音波を追加して早期発見につなげる研究が進む。
  • 大腸がんでは、手術後の血液検査で再発の兆候を捉える研究も。早い段階での抗がん剤治療の効果については、引き続き検証が必要。

 がん予防は、取り組む段階によって3つに分けられる。がんの発症そのものを防ぐ「一次予防」、検診などによって早期発見・早期治療につなげる「二次予防」、治療後の再発や病状の悪化を防ぐ「三次予防」だ。中釜氏は、HPVワクチンによる子宮頸がんの予防や、がん検診による早期発見、血液検査を利用した治療後の再発リスク評価などを例に挙げ、各段階で研究が進められていることを説明した。

 一方、既に有効性が確認されている検査にも課題は残る。例えば、大腸がん検診に使われる便潜血検査は、大腸がんによる死亡を減らす効果が認められているものの、がんになる前の病変や、出血の少ない病変などは十分に見つけられない場合がある。中釜氏は、大腸の右側に生じる病変などでは検出感度が低くなることにも言及した。

 また、日本では乳がんや子宮頸がんなど、有効な検診が存在していても受診率が十分に高くない。国は、がん検診受診率60%、精密検査受診率90%を目標としている。中釜氏は、検査技術の改善だけでなく、必要な人が実際に検査を受けられる仕組みを整える難しさも指摘した。

 AMEDは、基礎研究で得られた成果を臨床研究や実用化につなげる役割を担っている。2025年度から始まった第3期中長期計画では、医薬品や医療機器、データ利活用など8つの統合プロジェクトを通じて研究開発を進めている。中釜氏は、AMEDの研究支援全体に占める予防研究の割合は必ずしも大きくないことに触れつつ、今後は研究の充実とともに、成果を実際の医療へつなげる取り組みも重要になるとの考えを示した。

 がんの発症リスクを評価する研究の一例として注目されているのが、「体細胞モザイク」だ。これは、後天的に遺伝子変異が生じた細胞と、そうした変異を持たない細胞が体内に混在する状態を指す。京都大学の研究グループは2025年、頬の粘膜に蓄積する遺伝子変異が、飲酒や喫煙などの生活習慣、遺伝的な体質と関係することを報告した。特に、飲酒で顔が赤くなる体質の人では、飲酒に伴って遺伝子変異が蓄積しやすいことも示された。こうした変化を食道がんのリスク評価に利用する研究が進められており、AMEDも2026年度に関連する研究課題を採択している。

 がんの早期発見に関する研究では、乳がん検診に超音波検査を追加する効果も取り上げられた。日本で実施された「J-START試験」は、40代女性を対象に、マンモグラフィだけを受ける場合と、超音波検査も併用する場合を比較した研究だ。2026年に公表された約7万3000人の長期追跡結果では、超音波を併用した群で、ステージII以上の乳がんの累積発生率が17%低かった。既存の検診では発見しにくいがんに対し、検査方法を組み合わせることで早期発見につなげる研究の一例となる。ただし、乳がん死亡率の低下につながるかについては、引き続き検証が必要になる。

 さらに、治療後の再発の兆候を早く捉え、治療に生かす研究にも言及した。大腸がんの「ALTAIR試験」では、手術後に血液中のがん由来DNA(ctDNA)が検出されたものの、画像検査では再発が確認されていない243人を対象に、抗がん剤による早期介入の効果を調べた。再発などが確認されるまでの期間の中央値は抗がん剤群で9.3カ月、偽薬群で5.6カ月だったが、統計学的に有意な差は認められなかった。

 今回の試験では、血液検査で再発の兆候を早く捉え、その段階で今回検証した抗がん剤を投与しても、統計学的に明確な治療成績の改善は確認できなかった。中釜氏の講演では、こうした研究を進めるとともに、新しい検査や早期介入が実際に健康上の利益につながるかを検証する重要性も示された。

生涯の健康情報から発症リスクの変化を捉える

研究施設でタブレット端末を操作し、画面上のデータを確認する白衣姿の研究者。
研究施設でタブレット端末を操作し、画面上のデータを確認する白衣姿の研究者。
  • 遺伝情報や生活習慣、健診結果などを組み合わせ、一人ひとりの特徴に合わせてがんを予防する「精密予防」の研究が進む。
  • 長年にわたる健康状態の変化を調べ、がんの発症リスクが高まる時期を捉え、適切なタイミングで対策することを目指す。
  • 健診や診療などの情報を安全に結び付け、AIも活用。AMEDは研究基盤の整備を進め、がんの予防につなげる考え。

 こうした研究をさらに発展させる方向性として、中釜氏が示したのが、生涯を通じた「精密予防」だ。がんになりやすい人を見極めるだけでなく、発症に至るまでの変化を追い、適切な時期に予防介入することを目指す。

 従来のがん予防は、喫煙や飲酒など、多くの人に共通する発症リスクへの対策が中心だった。精密予防では、遺伝的な特徴に加え、生活環境や健診結果、タンパク質や代謝物などの「オミクス情報」を組み合わせる。中釜氏は、臓器による違いや男女による病気の現れ方の違いも考慮し、複数の要因が発症にどう関わるかを調べる必要性を説明した。

 重要になるのは、一度の検査結果だけでなく、長年にわたる身体の変化を捉えることだ。

 中釜氏は、こうした「ライフコース」の視点から、病気につながる変化がいつ起こり、どの段階で介入すればよいかを探る研究に期待を示した。ただし、現時点で個人の発症時期や最適な予防の時期を正確に予測できるわけではない。

 研究を進めるうえで課題となるのが、健康や医療のデータの連携だ。日本には健診、電子カルテ、がん登録、ゲノム解析などの情報が蓄積されているが、それぞれのデータを長期間にわたって結び付けることは容易ではない。中釜氏は、制度面の整備とともに、個人情報を保護しながら解析できる「TRE(Trusted Research Environment)」のような環境が必要だと指摘した。

 AMEDは2026年度から「医療等情報連携基盤整備・利活用推進事業」を開始している。中釜氏は、こうした研究基盤にAIによる分析も組み合わせ、がんの発症リスクを捉え、予防に役立つ科学的な根拠を蓄積していく方向性を示した。

参考文献

40代の乳がん検診でなぜ「マンモ+超音波」が問われるのか、東北大学の原田成美准教授に聞く Vol.1
https://prevono.net/interview/2492/

攻めの予防医療について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/yobou.index.html

革新的がん医療実用化研究事業(日本医療研究開発機構)
https://www.amed.go.jp/program/list/15/01/010.html

事業紹介・第3期中長期計画の8つの統合プロジェクト(日本医療研究開発機構)
https://www.amed.go.jp/program/

データ利活用・ライフコースプロジェクト(日本医療研究開発機構)
https://www.amed.go.jp/program/list/index04.html

医療等情報連携基盤整備・利活用推進事業(日本医療研究開発機構、2026年)
https://www.amed.go.jp/program/list/14/04/002.html

がん研究10か年戦略(第5次)について(厚生労働省、2023年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_231115_00001.html

科学的根拠に基づくわが国の大腸がん検診を提言「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」2024年度版公開(国立がん研究センター、2024年)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/1127/index.html

Bando H, Watanabe J, Takahashi Y, Kotaka M, Matsuhashi N, Oki E, Komatsu Y, Shiozawa M, Hirata K, Miyamoto Y, Takahashi M, Yamazaki K, Manaka D, Kanazawa A, Liang YH, Yeh KH, Watsuji Y, Yamamoto Y, Fukui M, Sharma S, Aushev VN, Jurdi A, Rabinowitz M, Liu MC, Aleshin A, Takemasa I, Kotani D, Sato A, Misumi T, Nakamura Y, Shi Q, Taniguchi H, Yoshino T, Kato T. Post-adjuvant chemotherapy in ctDNA-positive patients with resected colorectal cancer: a randomized phase 3 trial. Nat Med. 2026 Jul;32(7):2473-2480. doi: 10.1038/s41591-026-04428-0. Epub 2026 Jun 8. PMID: 42260101; PMCID: PMC13375530.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42260101/

リキッドバイオプシーによる大腸がん再発高リスク群への早期先制治療戦略の可能性を世界に先駆けて検討(国立がん研究センター、2026年)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2026/0612/index.html

頬粘膜における体細胞モザイクの解明と安全で正確な食道がん予測モデルの構築―頬粘膜の体細胞モザイクは食道扁平上皮がんの生活習慣や遺伝子多型リスクを反映する―(京都大学、2025年)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-05-02-0

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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