世界

英国が「国家がん対策計画」を発表、2035年に5年生存率75%へ

検査を950万件増やす早期診断の強化を柱に

英国の国家がん対策計画「The National Cancer Plan for England」の表紙。
英国の国家がん対策計画「The National Cancer Plan for England」の概要を示した資料。(出典:英国政府)

 世界対がんデーにあたる2026年2月4日、英国政府は「イングランド国家がん対策計画(National Cancer Plan for England)」を発表した。

早期診断の停滞を解消していく

英国国旗とロンドンのビッグ・ベン(エリザベス塔)。
英国を象徴する国旗と国会議事堂の時計塔。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 英国ではがんの5年生存率が約60%と日本より低く、早期診断の割合も過去10年で大きく改善していないことが課題となっている。
  • 政府は1万1000件超の意見を基に計画を策定し、2035年までにがん患者の75%が5年以上生存する社会の実現を目標に掲げた。
  • 2029年までに検査・画像診断を950万件追加し、便潜血検査の精度向上や肺がん検診の全国拡大などで早期発見を強化する方針を示した。

 同計画によれば、英国では、がんの治療が欧州の主要な国と比べて遅れているという。

 死亡率の高さが長年の課題とされてきたが、その背景には、経済格差が健康格差もある。

 なお、英国のがん全体での5年生存率は約60%。これは日本の66.2%と比較すると低い水準にとどまる。

 特に問題視されているのががんの早期診断で、ステージ1および2で診断されるがんが全体の半分を超える程度にとどまり、割合は過去10年で大きく改善していない。がん検診によって発見される症例も全体の6%に過ぎないと問題視されている。

 そうした中、今回の計画は、患者、医療従事者、研究者、政策担当者、がん関連団体などから1万1000件を超える意見を集めた「エビデンスの募集(call for evidence)」を基に策定されたと説明されている。

 この計画は、2035年までに、がんと診断された人の4人に3人、つまり75%が5年以上生存する社会の実現を目標に掲げる。

 さらに、2029年までに検査や画像診断などを950万件追加で実施すると打ち出している。

 具体策として、大腸がん検診では便潜血検査(FIT)の精度向上を進め、より多くの対象者を精密検査につなげる方針を示した。肺がんについてもがん検診の体制を全国的に拡大し、早期発見を強化する。

ロボット手術や個別化治療なども充実させる

医師が高齢の女性患者にタブレットを見せながら説明している様子。
医師が患者に検査結果や治療方針を説明している様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 計画はロボット手術の拡大や希少がんの専門センター集約、遺伝子検査の拡充による個別化医療の推進など、治療体制の強化も打ち出した。
  • 全患者に治療・メンタルヘルス・就労支援を含む個別支援計画を提供し、地域での担当者を配置する方針で、NHSは早期診断と適時治療の実現により生存者増を目指すとしている。
  • 一方で治療開始の遅れを懸念する声もあり、日本でも早期診断は課題であることから、英国の取り組みが参考になる可能性がある。

 さらに計画は診断体制の強化にとどまらず、治療と患者支援の在り方にも踏み込んでいる。ロボット手術の実施件数を増やすほか、脳腫瘍などの希少がんについては専門センターでの集中的な治療を進め、治療成績の改善を狙う。

 さらに遺伝子検査を拡充し、免疫療法など患者のがんの特性に応じた個別化治療を受けられる人を増やす方針を示した。治療後を含め、すべての患者に対して治療、メンタルヘルス、就労支援を網羅した個別支援計画を提供し、地域での窓口となる担当者を配置することも盛り込まれている。

 NHS(国民保健サービス)のがん担当臨床ディレクターであるピーター・ジョンソン氏は、「より多くのがんを早期に診断し、適切な時期に治療を提供するための明確な道筋を示す計画。今後10年で、何十万人もの人が、がんとともに、あるいは治療後も、より長く健康に生きられるようになる」と述べた。

 一方、英がん研究基金(Cancer Research UK)のミシェル・ミッチェルCEOは計画を歓迎しつつ、「治療開始まで長く待たされている患者が依然として多い」と指摘し、英国のがん生存率が国際的に遅れている現状を早急に改善する必要性を強調した。

 日本では、2025年11月に、国立がん研究センターはがん種別の5年生存率を公表している。日本でも、がんによっては生存率が低迷しているものもあり、早期診断は英国同様と課題となる。英国の対策を参考にできる部分もあると考えられ、PREVONOでも英国の施策について今後も細かくウオッチしていく。

参考文献

UK government announces National Cancer Plan for England(University of Cambridge early cancer institute)
https://www.earlycancer.cam.ac.uk/news/uk-government-announces-national-cancer-plan-england

前立腺がん・乳がん・膵臓がんで明暗 国立がん研究センターが5年生存率を公表 純生存率で見えた日本のがんの実態と課題(PREVONO)
https://prevono.net/japan/500/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

胸部X線画像を表示したモニターを前に、医師が診断AIの解析画面を確認している様子。
画像診断AIは、胸部X線やCT、MRIなどの検査画像から異常が疑われる症例を拾い上げ、医師の読影を支援する。画像はイメージ。

診断AIは「導入して終わり」ではない、マウントサイナイなど米12医療グループが検証へ

画像検査が増える一方で、診断する医師の負担も重くなる。こうした課題に対し、AIを各医療機関が個別に導入するだけでなく、複数の大規模医療グループが共同で効果や…

医師らが、人体の血管や骨格を映したデジタル画像を見ながら解析している。
AIと血液中の多様な生体情報を組み合わせることで、循環器病のリスクをより詳しく評価できる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

心臓や血管の病気6種類、血液中のタンパク質などをAI解析しリスク予測を改善

- 従来の循環器病のリスク予測は、年齢や血圧などが中心で、一人ひとりの変化を十分に捉えにくい課題。 - AIで血液中の2920種類のタンパク質と168種類の…

農地と集落が広がる田園地帯の風景。
農薬への曝露は、農地周辺の地域環境や住民の健康リスクを考える上でも重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

住む地域の環境とがんリスクに関連、複数の農薬の影響を受けやすい地域で平均150%高く

農業で使われる複数の農薬への環境曝露が多い地域では、がんの発症リスクも高い可能性があることが、ペルー全国を対象とした研究で示された。フランスのパスツール研究…

室内で電子たばこを手に持ち、口元に近づけている人。
電子たばこ使用では、DNA損傷や酸化ストレス、口や呼吸器の炎症など、がんにつながり得る変化が報告されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

電子たばこ、肺がんや口腔がんを引き起こす可能性

電子たばこは、肺がんや口腔がんを引き起こす可能性が高い――。世界各地で行われた研究を幅広く検討した結果から、こうした結論が示された。オーストラリアのニューサ…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す