MRIやCTなどの医療画像には、病変の大きさや形だけでなく、濃淡や細かな模様など、医師が目で見るだけでは捉えにくい情報も含まれている。
こうした特徴を数値化し、統計学やAIを使って病気の判別や将来のリスク予測に役立てる「Radiomics(ラジオミクス)」の研究が進んでいる。
2026年10月16日に鹿児島市で始まった第54回日本磁気共鳴医学会大会では、ラジオミクスやAIを実際の医療に生かすための課題を議論するシンポジウムが開かれた。
画像解析の性能が向上する一方、研究成果を医療現場や検診で安全に利用するには、画像情報の正確性や研究結果の信頼性などを確かめる必要がある。
画像解析は16秒でも全工程に33分半、研究の信頼性も課題
第54回日本磁気共鳴医学会大会であいさつする大会長の吉浦敬氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科放射線診断治療学分野教授)。(写真:編集部)
- 乳房MRIの画像解析は約16秒で完了。画像の取り出しや結果の登録を含む全工程の自動化に向けた開発が進む。
- AIによるMRI画像の再構成は、撮影時間の短縮や画質の改善に期待。画像の細かな構造が正しく保たれるかも重要に。
- ラジオミクス研究の信頼性を評価する「METRICS」。9分野30項目で研究の質を評価。
シンポジウムは、量子科学技術研究開発機構上席研究員の立花泰彦氏と順天堂大学健康データサイエンス学部教授の隈丸加奈子氏が座長を務め、5人の専門家が講演した。
最初に登壇した立花氏は、研究用に開発した画像解析技術を実際の病院で利用する際の課題を紹介した。
乳房MRIの解析では、画像から造影の特徴を数値化する計算そのものは約16秒で完了した。しかし、病院の画像管理システム(PACS)から画像を取り出し、解析結果を再登録するまでの全工程には平均約33分半かかっていた。このうち画像の取り出しだけで約20分半を要したという。
PACSは、検査画像を保存し、医師が確認するためのシステムだ。立花氏は、画像の取り出しから解析、結果の登録までを自動化する「PACSラボ」を開発し、プロセスの効率化を進めている。
続いて筑波大学数理物質系物理工学域准教授の寺田康彦氏は、AIを使ってMRI画像を再構成する「深層学習画像再構成」のリスクを取り上げた。
MRIでは、装置が集めた信号を処理して画像を作る。AIを利用すると画像のざらつきを減らし、撮影時間を短縮できる一方、本来存在する細かな構造が消えたり、存在しない構造が作られたりする恐れがある。
寺田氏の講演はMRI画像を作る技術についてのものだが、画像から病気の特徴を読み取るラジオミクスでは、元になる画像の情報が正しく保たれていることが重要になる。
一方、米国のメモリアルスローンケタリングがんセンターフェローの藤原基裕氏は、ラジオミクス研究の信頼性を評価する「METRICS」という方法を紹介した。
METRICSは、ラジオミクスを使って病気を見分ける研究が、信頼できる方法で行われているかを評価する仕組みだ。2024年に報告され、19カ国の59人の専門家が開発に参加した。
例えば、AIが画像から病気を高い精度で見分けたという研究でも、使った画像に偏りがあったり、別の画像では同じ結果が得られなかったりすれば、信頼性には疑問が残る。
METRICSでは、研究対象の選び方や画像の扱い方、性能の検証方法などを9分野30項目で評価する。藤原氏は、研究対象の選び方に偏りがないか、AIの開発に使っていない別のデータでも同じような性能が得られるかといった点が重要だと説明した。
別の病院でも同じ結果が出るか、AIの正答率にも落とし穴
第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場。専門家による講演や討論が行われ、MRIの画像解析技術を実際の医療に応用するための課題などが取り上げられた。(写真:編集部)
- ラジオミクスを幅広い医療機関で活用するには、CT装置や撮影条件が異なる病院でも同じ性能が得られるか検証することが重要。
- AIの正答率は評価方法によって大きく変化。学習に使った人の別画像を含めると95.93%、別人の画像だけでは53.37%という研究報告。
- 学習と試験に異なる人の画像を使うなど、AIの性能を正確に評価することが重要。病気の発見や将来のリスク予測への応用に期待。
熊本大学半導体・デジタル研究教育機構教授の中浦猛氏(総合情報学部門データサイエンス分野)は、画像の撮影条件が施設によって異なる問題を取り上げた。
中浦氏は、過去に取り組んだラジオミクス研究を別の医療機関で再現しようとした際、CT装置や撮影条件が統一されておらず、期待した結果が得られなかった経験を紹介した。
同じ臓器でも装置や撮影条件によって画像の写り方は異なる。AIがある病院で高い性能を示しても、別の病院で同じ結果が得られるとは限らない。
帝京平成大学健康メディカル学部准教授の平原大助氏(医療科学科臨床工学コース)は、AIが病気そのものではなく、学習に使った人の画像の特徴を手掛かりに判定してしまう問題を指摘した。紹介した2021年の研究では、学習に使った人とは異なる人のMRI画像で試験すると正答率は53.37%だったが、学習に使った人の別の画像を含めると95.93%に上昇した。平原氏は、AIの性能を正しく評価するには、学習と試験で異なる人の画像を使う必要があると説明した。
ラジオミクスや画像AIには、実用化に向けて解決すべき課題が残る一方、病気の発見や将来のリスク予測への応用が期待される。
第54回日本磁気共鳴医学会大会が開催された鹿児島市から望む桜島。大会は2026年10月16~18日に開催された。(写真:編集部)