脳腫瘍の遺伝子変異を、手術や生検を行う前にMRI画像から予測できる可能性が見えてきた。
国立がん研究センター、理化学研究所、東海大学、旭川医科大学などの研究グループが、神経膠腫で重要な「IDH遺伝子変異」の有無を予測するAIを開発し、2026年7月に研究成果を発表した。
MRIから遺伝子変異を予測
神経膠腫では、IDH遺伝子変異の有無が腫瘍の分類や治療方針を考えるうえで重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 神経膠腫で重要なIDH遺伝子変異の有無を、MRI画像から予測する2種類のAIを開発した。
- 海外患者の画像では最新型AIのAUCが0.97となり、神経放射線科医や脳神経外科医などの医師グループを上回った。
- MRIだけで変異を予測できれば、手術や生検の前に治療方針や手術計画を考えるための情報になる可能性がある。
神経膠腫は代表的な脳腫瘍の一つで、どのような遺伝子変異を持つかによって、腫瘍の分類や治療方針、今後の見通しが変わる。
その中でも重要なのが「IDH遺伝子」の変異だ。現在は、手術や生検で採取した腫瘍組織を調べて確認するのが基本となっている。
もしMRI画像だけからIDH変異の有無を予測できれば、患者への負担を抑えながら、手術前の治療方針や手術計画を考えるための情報を得られる可能性がある。
研究グループは、MRI画像からIDH変異を予測する2種類のAIを開発した。さらに、神経放射線科医8人、脳神経外科医5人、研修中の脳神経外科医5人の計18人にも同じ画像を評価してもらい、AIと医師の予測結果を比べた。
海外患者の画像データを使った検証では、最新型のAIはAUCが0.97を記録した。AUCは、変異がある人とない人をどの程度正しく見分けられるかを示す指標で、1に近いほど性能が高い。
医師グループのAUCは、神経放射線科医が0.65、脳神経外科医が0.59、研修中の医師が0.54で、海外患者の画像ではAIが高い予測性能を示した。
日本人データでは精度低下、熟練医がAIを上回る例も
日本人患者のMRI画像ではAIの性能が低下し、一部の経験豊富な医師がAIを上回る結果も示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 海外データでAUC0.97だったAIは、日本人データでは0.82に低下し、もう一つのAIも0.85から0.75に下がった。
- 日本人患者の画像では、経験豊富な神経放射線科医2人と脳神経外科医1人がAUC0.88を示し、AIを上回った。
- AIを医療現場で使うには、撮影環境や患者背景が異なると性能が変わる可能性を踏まえ、実際の施設に近い条件で検証する必要がある。
一方、日本人患者のMRI画像で検証すると、AIの成績は低下した。
海外データでAUCが0.97だった最新型AIは、日本人データでは0.82に低下した。もう一つのAIも、0.85から0.75に下がった。
研究グループは、MRIを撮影した装置や条件、腫瘍の大きさ、患者の年齢や腫瘍の種類などが海外と日本で異なっていたことが影響した可能性を指摘している。
さらに、日本人患者の画像では、経験豊富な神経放射線科医2人と脳神経外科医1人で、AUCが0.88を示し、2種類のAIを上回った。
AIは、学習した画像と似たデータでは高い性能を発揮しても、撮影環境や患者の特徴が変わると性能が低下することがある。今回の研究は、AIを医療現場に導入する際には、実際に使う施設の環境や患者背景に近いデータで、性能を確かめる必要があることを示した。
また、今回の評価では、海外患者と日本人患者それぞれ10例のテスト画像を用いてAIと医師を比較しており、さらに多くの症例での検証も必要となる。
現時点では、MRIだけでIDH変異を確定できるわけではない。ただ、AIが予測結果だけでなく、その予測がどの程度確かなのかを示す「不確実性」も提示できるようになれば、医師の判断を補う情報として活用できる可能性がある。
今後、画像から遺伝子の特徴を予測する技術の精度や信頼性がさらに高まれば、患者への負担を抑えながら、治療方針を検討する際の新たな判断材料になる可能性がある。