研究

腸内細菌が肝臓がんに関与?血液で検出可能な新しい手掛かりの可能性

東海大学と慶應義塾大学の研究、肝臓への感染拡大との関わりも示された

手で下腹部を押さえる女性の腹部
腹部の状態を示すイメージ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 肝臓がんの新しい手掛かりになり得る、細菌由来の物質が見つかった。これは血液中で調べられる可能性がある。

 東海大学と慶應義塾大学などの共同研究グループが2026年3月に報告した。

腸内の菌が出す小胞が肝臓に先回り

腸内細菌由来のKpEVsとtsRNAが肝臓がんと関連する仕組みを示した図
腸内細菌が分泌するKpEVsに含まれるtsRNAは肝臓がん患者でより多く検出された(出典:慶應義塾大学)
  • 腸内細菌は腸だけでなく、離れた臓器である肝臓にも影響を及ぼすと考えられている。
  • 肺炎桿菌は腸外に広がると重い感染症を起こし、特に肝臓への拡大が問題になっていた。
  • 研究では菌そのものではなく、RNAなどを含む細胞外小胞「KpEVs」に注目し、肝臓への作用を調べた。

 腸内細菌が全身の病気に関わるとされる。それらは腸そのものの健康に関連するばかりではなく、腸から離れた臓器にも影響を及ぼすと見られている。

 今回の報告で調べられたのは肝臓への影響だ。

 そうした中で、肺炎桿菌は腸内にいる細菌の一つだが、腸の外へ広がると重い感染症を起こすことが知られていた。特に、腸内の肺炎桿菌が肝臓へ広がることが問題だった。

 このたび研究グループは、菌そのものではなく、菌が出す「細胞外小胞」に注目した。細胞外小胞は、細菌を含めた細胞から分泌される粒子のこと。この中に、細胞の働きに影響するタンパク質やRNAが含まれると知られている。肺炎桿菌が出す細胞外小胞は、KpEVsと呼ぶ。KpEVsはRNAなどを含む小さな粒子だ。

 研究グループは、肺炎桿菌が出すKpEVsが肝臓でどのような影響を与えるのかを調べた。

肝臓に細菌をとどめる「ゾンビマクロファージ」

試験管に入った血液サンプルを扱う研究者の手元
血液サンプルを用いた分析の様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • KpEVsは血液を通って肝臓に集まり、マクロファージの異物排除能力を弱めることが確認された。
  • 変化したマクロファージは炎症を続けながら細菌を排除しにくくなり、「ゾンビマクロファージ」と呼ばれる。
  • 血液中の細菌由来tsRNAは肝臓がん患者で多く、診断や予防、治療につながる新たな指標候補とされる。

 研究グループが調べたところ、KpEVsは消化管から血液を通って肝臓に集まり、肝臓で異物に対抗する役割を果たしているマクロファージを変化させることを確認した。

 具体的に、KpEVsの影響により変化したマクロファージは、異物を取り除く力が弱まり、一方で炎症を起こす物質は出し続けていた。その結果、マクロファージに取り込まれても細菌が排除されにくくなる。研究グループは、このように変化したマクロファージを「ゾンビマクロファージ」と呼んでいる。

 さらに、研究グループは、人の血液には、KpEVsに入る細菌由来の「スモールRNA」、特に転写RNAの断片の一種であるtsRNAが存在し、健常者よりも肝臓がん患者で多く見つかることを確かめた。

 このtsRNAがマクロファージの中に取り込まれると、一酸化窒素(NO)の産生を弱め、病原体を排除する力を下げる可能性がある。NOはがん細胞を排除する働きにも関わるため、その低下はがんに有利な環境につながる。間接的に腸内細菌が肝臓がんに関連する可能性が考えられる。

 こうした細菌由来の小胞やtsRNAは、肝臓がんの診断や予防、治療につながる可能性がある。血液で調べられるtsRNAは、体への負担が少ない新しいがんの手掛かりとして期待される。

参考文献

腸内に共生する肺炎桿菌の肝臓への感染拡大戦略の解明と肝臓がんとの関連性の発見 ~肺炎桿菌感染症の予防法及び肝臓がんの新規バイオマーカーや治療法開発に向けて新しい概念を提示~(東海大学・慶應義塾大学)
https://www.u-tokai.ac.jp/news-research/1188783/

Tsubaki S, Nashimoto S, Tanaka R, Toyomoto T, Tsutsuki H, Kato K, Nakayama J, Kimura K, Oshima K, Yamamoto Y, Okusaka T, Esaki M, Kawai N, Ota N, Yoshioka Y, Ochiya T, Saito Y, Sawa T, Hozumi K, Matsuzaki J, Tsugawa H. Gut Commensal Klebsiella pneumoniae Extracellular Vesicles Shape a Liver Microenvironment Conducive to Gut-Liver Bacterial Translocation and Pro-Tumorigenic Processes. J Extracell Vesicles. 2026 Apr;15(4):e70262. doi: 10.1002/jev2.70262. PMID: 41885342.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41885342/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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