肺がんの発生や治療後に体内で起きる変化を、尿から捉えようとする研究が進んでいる。
英国ケンブリッジ大学などの研究グループが2026年5月に報告した。注目したのは、「老化細胞」と呼ばれる細胞が出すサインだ。
老化細胞のサインを尿で読む仕組み
胸部X線画像を確認しながら説明する医師。こうした診断に尿が使える?画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- ケンブリッジ大学などの研究グループは、肺がんに関係する老化細胞の変化を尿で捉える技術を報告した。
- 抗がん剤で老化した肺がん細胞では、MMP-7という酵素が特に増えることが示された。
- MMP-7に反応して金ナノ粒子を尿中に出す注射型ナノセンサーにより、体内の変化を尿で読み取る仕組みが開発された。
肺がんは、症状が出る前に見つけることが難しいがんの一つだ。また、治療後に目立った症状がないまま、再発や治療が効きにくい状態が進むこともある。そのため、体への負担が少なく、繰り返し調べられる検査技術が求められている。
早期のがんを尿から調べる方法として、PREVONOでは、エクソソームを含む細胞外小胞を分析する研究を紹介してきた。一方、今回のケンブリッジ大学の研究は、それとは異なる発想に基づくものだ。
今回の研究で注目されたのは「老化細胞」と呼ばれる細胞だ。老化細胞は、加齢や治療などの影響で分裂を止めた細胞を指す。それにもかかわらず体内に残り、周囲に炎症を引き起こす物質などを出すことがある。研究グループは、こうした細胞が肺がんの発生や、治療後にがんが再び進みやすくなる状態に関係する可能性に注目した。
研究ではまず、肺がん細胞に抗がん剤を加え、老化細胞の状態を作った。すると、老化した肺がん細胞では、複数の分泌タンパク質の中でも「MMP-7」という酵素が特に増えていた。マウスの肺がんモデルでも、治療後に老化細胞の目印が増えた腫瘍でMMP-7が高くなり、血液中のMMP-7も上昇していた。
この結果をもとに、研究チームはMMP-7に反応する「ナノセンサー」を作製した。ナノセンサーは、体内に注射して使うごく小さな検出用の粒子で、血液中を巡り、標的となる分子に反応する仕組みだ。
MMP-7に出会うとセンサーの一部が切断され、ごく小さな金ナノ粒子が放出される。金ナノ粒子は腎臓を通って尿に出るため、尿を調べることで、体内でMMP-7の働きが高まっているかを読み取れる。
研究チームは、このナノセンサーが尿で検出できる形のサインを出すかを調べた。MMP-7によって切り離された金ナノ粒子は尿中に移り、色の変化として測定できる。さらに、わずかな量でも検出しやすくする方法を組み合わせ、尿中の小さな変化を読み取りやすくした。
早期発見や治療後の見守りへの応用
X線画像を見ながら診断内容を確認する医師。尿を使う検査が判断を助けてくれる可能性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- マウス実験では、抗がん剤治療で老化細胞が増えた肺がんや肺線維化のモデルで、尿中シグナルが強くなった。
- 肺がんの早期発見だけでなく、治療後に老化細胞が残っていないかを調べる再発監視への応用が期待される。
- 現時点では人で使える検査ではなく、実際の患者に応用するには臨床試験による検証が必要になる。
マウスを使った実験では、抗がん剤治療によって老化細胞が増えた肺がんで、尿中のシグナルが強くなった。さらに研究チームは、MMP-7が関わる別の肺の変化として、肺が硬くなる「線維化」のモデルでも検証した。ここでも尿中のシグナルが強くなり、肺の中で起きる変化を尿で反映できる可能性が示された。加えて、老化細胞を減らす処置を行うと、尿中のシグナルも変化した。体内で起きている変化を、尿で追跡できる可能性を示す結果だ。
この技術は、肺がんを症状が出る前に見つけるための根拠になる可能性がある。加えて、治療後に老化細胞が残っていないか、再発や治療が効きにくくなる状態につながる変化が起きていないかを調べる目的にも応用が期待される。
一方で、このセンサーはまだ人で検査として使われた段階ではない。研究グループも、実際に患者に使うには臨床試験が必要になるとしている。
注目されるのは、がん細胞そのものを尿の中に探すのではなく、肺の中で起きている老化細胞の変化を尿で読み取ろうとしている点だ。この技術は、肺がんの発生に関わる早い変化を捉える手法になる可能性がある。