研究

東大など、血液中の酵素の働きから膵臓がんを見分けられる可能性を示す

1分子レベルで変化を測る検査技術を報告

医療従事者が患者の腕から採血している様子。
血液検査のために採血を行う場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 膵臓がんを血液から早期に見つける技術の実現に向けた研究成果が報告された。

 東京大学、理化学研究所、日本医科大学などの研究グループが2026年5月に発表した。

膵臓がんを酵素の働きから調べる

血管内を流れる赤血球を表した図。
血液中を流れる赤血球を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • リキッドバイオプシーは、血液や尿などから病気の手掛かりを探る検査法として研究されている。
  • 今回の研究では、遺伝子やRNAではなく、血液中のタンパク質の働き方の違いに注目した。
  • 血液中の酵素を1分子ずつ観察し、AIで特徴的なパターンを解析する仕組みが開発された。

 リキッドバイオプシーとは、血液や尿などを使って病気の手掛かりを探る検査法。例えば、がんの場合、体液中に出てくるがん細胞、遺伝子、RNA、タンパク質などを調べることで、体の中の変化を知る方法が研究されている。

 研究グループによれば、これまでのリキッドバイオプシーでは、がんに関係する遺伝子やRNAを調べる方法が多く研究されてきたという。

 その一方で、細胞の中で実際に働いているのはタンパク質だ。病気になると、タンパク質の量が変化したり、働き方そのものが変化したりすることがある。今回の研究では、この「タンパク質の働き方」に注目した。

 タンパク質は、遺伝子の情報に基づいて作られるが、同じ遺伝子から作られたタンパク質でも、体内ではさまざまな変化を受けている。例えば、別のタンパク質と結合することで働き方が変わることがある。

 研究グループによれば、こうした状態の違いを持つタンパク質は「プロテオフォーム」と呼ばれている。病気になると、特定のプロテオフォームが増えたり減ったりすることがあり、この変化から、遺伝子だけでは分からない病気の兆候を捉えられる可能性があるという。

 ただし、血液中には多くのタンパク質が混ざっているため、プロテオフォームを見分けるのは容易ではない。そこで、今回の研究では、血液中の酵素を1分子ずつ観察し、それぞれの働き方の違いを測定できる自動解析の仕組みを開発した。

 さらに、得られた膨大なデータをAI(人工知能)で解析し、病気に特徴的なパターンを抽出する仕組みも構築。これにより、膵臓がんに関連するタンパク質の機能変化を安定して捉えられるようにした。

患者の血液で特徴的な変化を発見

検査担当者が、血液検体の入った採血管をラックに並べている様子。
血液検体を扱う検査室の様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 膵臓がん患者の血液では、DPP4とFAPαという二つの酵素の組み合わせに特徴的な変化が見つかった。
  • DPP4-FAPα複合体が血液中に存在することが明らかになり、膵臓がん患者では大きく減っていることが確認された。
  • 早期の膵臓がん患者でも変化が見られ、血液検査による早期発見を支える新たな診断技術につながる可能性がある。

 研究グループが、この仕組みを使って、血液中にある酵素の働き方を分析したところ、膵臓がん患者の血液では、特定の酵素の組み合わせに特徴的な変化が見つかった。

 注目されたのは、「DPP4」と「FAPα」という二つの酵素。従来の解析では、それぞれの酵素を別々に捉えることが中心だったが、今回の研究では、この二つが結合したDPP4-FAPα複合体が血液中に存在し、DPP4の主要なプロテオフォームの一つであることが初めて明らかになった。その上で、この「DPP4-FAPα複合体」が膵臓がん患者の血液中で大きく減っていることが確認された。こうした変化は複数の医療機関由来の検体で確認され、早期の膵臓がん患者でも見られた。

 膵臓がんは自覚症状が乏しく、進行してから見つかることが多い。早く見つける方法の開発が大きな課題になっている。

 今回の研究は、血液中のタンパク質の「働き方の違い」を調べることで、膵臓がんの手掛かりを捉えられる可能性を示した。今後、大規模な臨床研究で有効性が確認されれば、血液検査による早期発見を支える新たな診断技術につながる可能性がある。

参考文献

「1分子計測リキッドバイオプシー」による膵臓がんの早期発見の実現に向けて-膵臓がんに特異な血液中のタンパク質機能変化の自動計測を可能に-(理化学研究所・東京大学・日本医科大学)
https://www.riken.jp/press/2026/20260522_1/index.html

Development of single-molecule protease activity analysis platform to elucidate disease-related alterations of circulating proteoform signatures(Cell Biomaterials)
https://doi.org/10.1016/j.celbio.2026.100456

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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