コラム

大腸内視鏡のAI支援、医師の「見つける力」を弱める可能性

日本の研究者も参加した多施設観察研究

横向きに寝た患者に対して、医師が大腸内視鏡検査を行う様子を示したイラスト。
大腸内視鏡検査では、医師の観察力とAI支援の活用をどう両立させるかが課題となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

AI(人工知能)は、大腸内視鏡検査でポリープや悪性腫瘍などの病変を見つける支援技術として導入が進んでいる。

一方で、AIに頼る機会が増えることで、医師自身が病変を見つける能力に影響が出る可能性も指摘されている。

ポーランドやノルウェー、英国、スペイン、日本などの研究者による国際研究グループが2025年8月にその検証結果を発表した。日本からは、昭和大学横浜市北部病院の研究者が参加している。

AIが病変を知らせる大腸内視鏡、医師の技能への影響を検証

大腸の図を背景に、内視鏡スコープを操作する医療従事者の手元を示したイラスト。
大腸内視鏡検査では、ポリープや腺腫などの病変を見つけるため、内視鏡画像を注意深く観察する。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 大腸内視鏡では、ポリープや腺腫を見つけて切除することが大腸がん予防につながる。
  • AI支援システムは、内視鏡画像をリアルタイムで解析し、病変が疑われる場所を画面上で知らせる。
  • 研究では、AIを日常的に使うようになった後に、医師がAIなしで検査した場合の病変発見力が変化するかが検証された。

大腸内視鏡検査では、腸内に突出したポリープや、その中に含まれることもある、将来がんになる可能性のある腺腫を見つけ、切除することが大腸がんの予防につながる。さらに、悪性腫瘍が見つかることもある。

ところが、病変が小さかったり、粘膜のしわに隠れていたりするため、検査を担当する医師によって発見率に差が出ることがある。

そこで活用されているのが、内視鏡画像をリアルタイムで解析し、病変の疑いがある場所を画面上で知らせるAI支援システムだ。見落としを減らす効果が期待される一方、医師がAIの警告を待つようになると、自分で画像を細かく観察する技能が弱まる可能性がある。

こうした、技術への依存によって人の技能が低下する現象は「デスキリング」と呼ばれる。自動運転や航空などでも問題となってきたが、医療AIについては十分に検証されていない。

研究は、ポーランドの4施設の内視鏡施設で行われた。AI導入前の3カ月間と、導入後の3カ月間を比べ、いずれもAIを使わずに行われた大腸内視鏡検査の成績を調べた。

AI導入後は、検査日ごとにAIありとAIなしが無作為に割り当てられていた。研究グループはそのうちAIなしの検査だけを取り出し、導入前の795人と導入後の648人を比較した。AIを日常的に使うようになった後に、医師がAIなしで検査したときの発見能力が変化したかを調べた研究だ。

AI導入後、腺腫発見率が28.4%から22.4%に低下

大腸内を進む内視鏡スコープと、腸管内の病変を示した模式図。
AI支援内視鏡は、大腸内のポリープや腺腫の疑いがある部位を検出し、見落としを減らすことが期待されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • AI導入後に医師がAIなしで検査した場合、腺腫発見率は28.4%から22.4%へ低下していた。
  • 今回の結果は、AIを日常的に使うことで医師自身の病変発見能力に影響が出る可能性を示している。
  • 観察研究のため因果関係は断定できないが、AI導入時には医師の技能を保つ訓練や評価の仕組みも重要になる。

その結果、将来大腸がんへ進む可能性のある「腺腫」を見つけた割合は、AI導入前の28.4%から、導入後には22.4%へ低下した。差は6.0ポイントで、統計学的にも有意だった。

さらに、患者の年齢や性別などを考慮しても、AI導入後は腺腫を発見する確率が低かった。AI導入後の腺腫発見のオッズ(可能性の指標)は、導入前の0.69倍だった。

今回の結果は、内視鏡そのものの性能が下がったことを示すものではない。AI導入後に医師がAIを使わずに検査した際の腺腫発見率が低下していた。問題となったのは機器の性能ではなく、AIを日常的に使うことによって医師自身の発見能力に影響が出る可能性だ。

ただし、今回の研究は実際の診療データを用いた観察研究だ。そのため、AIの使用が技能低下を直接引き起こしたと断定することはできない。患者の構成や検査環境など、別の要因が影響した可能性も依然として残される。その因果関係については引き続き検証が必要だ。

研究結果は、AIによる病変発見支援を進める一方で、医師がAIなしでも診断能力を保てるよう、継続的な訓練や評価の仕組みが必要になる可能性を示している。

参考文献

Budzyń K, Romańczyk M, Kitala D, Kołodziej P, Bugajski M, Adami HO, Blom J, Buszkiewicz M, Halvorsen N, Hassan C, Romańczyk T, Holme Ø, Jarus K, Fielding S, Kunar M, Pellise M, Pilonis N, Kamiński MF, Kalager M, Bretthauer M, Mori Y. Endoscopist deskilling risk after exposure to artificial intelligence in colonoscopy: a multicentre, observational study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Oct;10(10):896-903. doi: 10.1016/S2468-1253(25)00133-5. Epub 2025 Aug 12. Erratum in: Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Nov;10(11):e12. doi: 10.1016/S2468-1253(25)00294-8. PMID: 40816301.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40816301/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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