研究

同じ発がん要因でも、がんになる人とならない人がいる理由の一端を解明

生まれ持った遺伝的な違いが、DNA損傷後のがんの進み方を左右する可能性

強い日差しの中で手を額にかざし、まぶしそうに空を見る女性。
喫煙や紫外線などでDNAが傷ついても、がんにつながるかどうかには、生まれ持った遺伝的な違いが関わる可能性が示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 同じように喫煙や紫外線などの発がん要因にさらされても、がんになる人とならない人がいる。その違いには、生まれ持った遺伝的な特徴が関わっている可能性が示された。

 英ケンブリッジ大学などの研究チームが発表し、研究成果は2026年7月22日、科学誌「Nature」に掲載された。

同じDNA損傷でも、がんへの進み方に違い

強い太陽の光を手で遮る様子。
紫外線などによるDNA損傷と、生まれ持った遺伝的背景の組み合わせが、がんの発生や進行に影響する可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 遺伝的背景が異なる4系統のマウスに同じ発がん物質を与え、約600個の腫瘍を解析した。
  • 同じDNA損傷を受けても、がんのきっかけとなる遺伝子変化や、その後の進み方は遺伝的背景によって異なった。
  • がんの発生や進行には、環境によるDNA損傷と、生まれ持った遺伝的な特徴の両方が関わる可能性が示された。

 がんは、細胞のDNAに傷が付き、遺伝子の変化が積み重なることで発生する。たばこの煙や紫外線などは、こうしたDNA損傷を引き起こす代表的な要因だ。

 ただし、同じような環境で生活していても、全員が同じようにがんになるわけではない。例えば、喫煙者のすべてが肺がんになるわけではなく、反対に、たばこを吸わない人が肺がんになることもある。

 研究チームは、この違いに生まれ持った遺伝的な特徴がどの程度影響するのかを調べた。

 実験では、遺伝的な特徴が異なり、肝臓がんになりやすさも異なる4系統のマウスを使った。すべてのマウスに同じ年齢で、同じ量の発がん物質を与え、環境条件をそろえた。

 その後、発生した約600個の腫瘍について遺伝子を詳しく調べた。

 その結果、がん細胞はいずれも細胞の増殖に関わる似た仕組みを活性化していたものの、どの遺伝子変化をきっかけにがんが進むか、その後にどのような変化が起こるかには、マウスの遺伝的な背景によって違いがあった。

 つまり、同じDNA損傷を受けても、どのような遺伝子変化を経て腫瘍が進んでいくかは、生まれ持った遺伝的な違いによって変わる可能性がある。

 研究チームは、がんは単に偶然だけで起こるのではなく、環境によるDNA損傷と、生まれ持った遺伝的な特徴が組み合わさって発生や進行に影響するとみている。

がん検診や予防も「個人差」を考える時代へ

口元に紙巻きたばこをくわえ、煙を吸っている人の横顔。
喫煙に関連する発がん物質は、肺がん以外のがんにも関わる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 禁煙や紫外線対策の重要性は変わらない一方、同じ環境でも遺伝的背景によってがんリスクが異なる可能性がある。
  • 将来は、年齢や生活習慣に加えて遺伝的な特徴も組み合わせ、予防や検診を個別化する方法につながる可能性がある。
  • 治療反応にも遺伝的背景が影響する可能性があるが、今回の研究はマウス実験であり、人での検証が必要。

 今回の研究は、同じ発がん要因にさらされても、人によってがんになる危険性が異なる理由を考える手掛かりになる。

 現在のがん予防では、禁煙や紫外線対策など、発がんにつながる要因を減らすことが重視されている。こうした対策が重要であることに変わりはない。

 一方、研究結果は、同じ生活習慣や環境でも、遺伝的な背景によってがんのなりやすさや、がんの進み方が異なる可能性を示している。

 将来的には、年齢や生活習慣だけでなく、生まれ持った遺伝的な特徴も組み合わせて、がんの危険性が高い人を見極め、より細かく予防や検診の対応を分ける方法につながる可能性がある。

 治療でも、遺伝的な背景によってDNAを損傷させるがん治療への反応が異なる可能性があると研究チームは指摘している。今後、治療法を選ぶ際にも、生まれ持った遺伝的な違いを考慮する必要が出てくるかもしれない。

 今回の研究はマウスを使ったもので、人にも同じように当てはまるかは今後の検証が必要だ。

 ただ、同じ発がん要因にさらされても、遺伝的な違いによってがんの起こり方や進み方が変わる可能性が示された。今後、こうした個人差を踏まえた予防や検診につながるかが注目される。

参考文献

Study reveals why DNA damage from smoking and UV rays may cause cancer in some people but not others(University of Cambridge)
https://www.cam.ac.uk/research/news/study-reveals-why-dna-damage-from-smoking-and-uv-rays-may-cause-cancer-in-some-people-but-not-others

Genetic background sets the trajectory of experimental cancer evolution(Nature)
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10821-z

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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