コラム

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が見解書の草案を公表 広がる自費検査の中で問われる「科学的根拠」

キャンサーガード提供開始、特異度や陽性後の対応も評価軸に

検査結果の書類を見ながら、医療者が受診者に説明している様子。
多がん種早期検出(MCED)検査では、陽性後に医師が結果を説明し、必要な精密検査につなげる体制も重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 1回の採血や尿検査などで、複数のがんをまとめて調べる検査が広がり始めている。

 そうした中で、欧米を中心に、こうした検査を「多がん種早期検出(MCED)」として研究および評価する動きが進んでいる。米国では自費のスクリーニング検査として商用提供も始まっている。

 2026年7月には、米国アボット傘下のエグザクトサイエンスが日本国内で「キャンサーガード」というMCEDのサービスを開始している。

 このたび、国内でMCEDの臨床研究に携わる医師と、エグザクトサイエンスの幹部に取材する機会を得た。

「がんを多く見つける」だけでは不十分、特異度も重要に

ベッドに横たわる受診者の腕から、医療者が採血している様子。
MCED血液検査は、1回の採血で複数のがんに関連するシグナルを調べる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • MCEDは1回の採血などで複数のがんに関連するシグナルを調べるが、検査だけでがんの種類や発生部位を確定するものではない。
  • 評価では感度だけでなく、偽陽性を抑える特異度や、陽性後の精密検査、最終的にがん死亡を減らせるかまで確認する必要がある。
  • キャンサーガードでは症例対照研究で特異度97.4%、一部がんを除く感度64.1%が示されたが、一般集団での前向き検証が続いている。

 キャンサーガードは、1回の採血で血液中のがん由来DNAのメチル化や腫瘍関連タンパク質を組み合わせて解析し、50種類以上のがん種やサブタイプに関連するシグナルを調べるMCED検査だ。メチル化は、DNA配列を変えずに遺伝子の働きを調節する仕組みで、がんでは特徴的なメチル化パターンが生じることがある。ただし、検査結果だけでがんの種類や発生部位を特定したり、がんと確定診断したりするものではない。

 結果は医師が感度や特異度など検査の限界も含めて説明し、陽性の場合には画像検査などの追加検査につなげて、がんの有無や発生部位を詳しく調べる。

 国立がん研究センター東病院トランスレーショナルリサーチ支援室の今井光穂氏(医薬品開発推進部門医薬品開発推進部)は、MCEDの評価では、感度と特異度、偽陽性や偽陰性、陽性後の精密検査、さらに最終的にがん死亡を減らせるかまで、段階的に確認する必要があると説明した。

 特に重要になるのが「特異度」だ。これは、実際にはがんがない人を正しく陰性と判定できる割合を示す。症状のない多数の人に検査を行う場合、特異度が低いと、がんではないのに陽性となる人が増え、無用な不安につながる可能性があるほか、その後のCTや内視鏡など、追加検査の負担も増えてしまう。

 日本で2026年7月から提供が始まった「キャンサーガード」では、症例対照研究「ASCEND-2」で特異度97.4%、乳がんと前立腺がんを除くがんの感度64.1%が示されている。

 エグザクトサイエンスの久保田俊之氏(メディカルアフェアーズ本部長)は、症状のない人を広く対象とするスクリーニング検査だからこそ、高い特異度によって偽陽性を抑えることを重視していると説明した。

 ただし、ASCEND-2は、既にがんの有無が分かっている人を比較した症例対照研究で、この97.4%と64.1%は、一般の無症状者を前向きに検診して得られた数字ではない。現在は、米国で一般集団に近い条件で前向きにデータを集める臨床試験「FALCON」が進む。一方、日本では約2000人を対象とした臨床試験「CRANE」で、日本人における感度や特異度の検証が進められている。

 現状のMCEDでは、「早く見つけられる」ことと「がん死亡を減らせる」ことも同じではない。どれほど優れた検査性能を示しても、それが進行がんや死亡の減少につながるかは、さらに長期の研究で確認する必要がある。

市場で「選ばれる検査」と、医学的に「推奨できる検査」は同じか

青空の下に広がる東京の高層ビル群と東京タワー。
日本でも多がん種早期検出(MCED)検査の自費提供が始まり、学会による適正利用の議論が進んでいる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 日本では血液や尿などを使う複数の自費がん検査が広がり、価格や受診施設、結果説明、陽性後の支援体制まで含めて選ばれている。
  • キャンサーガードは陽性後の造影CTや必要に応じたPET-CTへの連携など、検査後の診断支援もサービスに組み込んでいる。
  • 自費市場が先行する中、日本癌治療学会はMCEDの対象者や精査、過剰診断、費用対効果などを整理する見解書案を公表した。

 もう一つ大きな動きが、市場の拡大だ。日本では既に血液や尿などを使って複数のがんを調べる自費検査が、人間ドックや自由診療を中心に提供されている。

 キャンサーガードも、日本では薬事承認された体外診断用医薬品(IVD、In Vitro Diagnostic)ではなく、臨床検査室開発検査(LDT、Laboratory Developed Test)として自費で提供されている。「日本は米国外で初めてキャンサーガードを自社提供する国」と、エグザクトサイエンス代表取締役のペレ・ステファン氏は説明する。

 一方で、自費市場では、科学的な性能だけで検査が選ばれるとは限らない。価格、受けられる施設の数、結果が出るまでの期間、医師からの説明の程度、陽性になった後の支援体制といったサービス全体が比較される。

 キャンサーガードは、「陽性後」をサービスの一部に組み込んでいることが特徴となっている。陽性となった場合には、医師の判断で造影CTを行い、そこで病変が確認できなければ必要に応じて18F-FDG PET-CTへ進む体制を整えている。同社の画像診断連携サービスの対象となる造影CTや18F-FDG PET-CTを提携施設で受ける場合には、追加費用がかからない仕組みとし、検査前後を支援するケアナビゲーターも置いている。同社は、検査そのものだけでなく、陽性後の診断までつなげるサービスとして構築している点を強調している。

 これは、MCED市場が今後どのように競争していくかを見る上でも重要だ。「何種類のがんを調べられるか」だけでは差別化しにくくなれば、研究データの質、特異度、陽性後の医療へのつながりやすさまでが、選ばれる条件になっていく可能性がある。

 その半面、市場で多く選ばれる検査が、そのまま医学的に推奨される検査とは限らない。自費市場が先に広がる中で、どこまでの科学的根拠を求めるのか、既存のがん検診とどう組み合わせるのか、陽性後の対応をどう扱うのかについて、医学界側の整理も必要になる。

 価格も選択に影響する要素になる。2026年9月16日時点でキャンサーガードの公式サイトには国内11施設が掲載されており、検査料金は医療機関ごとに異なる。確認できる例では15万8400円、19万8000円などとなっている。一方、国内には尿や唾液などを使って複数のがんリスクを調べる自費検査もあり、2万円台から8万円前後の価格で提供される例もある。ただし、検体や測定原理、対象がん種、検査結果の意味、科学的根拠が異なるため、価格だけでは単純に比較できない。

 また最近では、自費検査を企業の福利厚生として導入したり、企業や健康保険組合を通じて提供したりする例もある。企業や保険者の方針も、市場の広がりに影響を与える可能性がある。

 こうした中、日本癌治療学会は2026年9月3日、「多がん種早期検出(MCED)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」の草案を公表した。9月17日までパブリックコメントを募集している。10月に神戸市で開催される学術集会で関連の演題が設けられている。検査性能の解釈だけでなく、対象とする人、陽性後の精査、過剰検査や過剰診断、医療資源への影響、費用対効果などを含め、MCEDをどのように使うべきかを整理する動きが始まっている。

参考文献

多がん種早期検出検査「キャンサーガード」、日本で提供開始
https://prevono.net/japan/2389/

『多がん種早期検出(multi-cancer early detection: MCED)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版』パブリックコメントご協力のお願い
https://www.jsco.or.jp/news/detail.html?itemid=1118&dispmid=767

Imai M, Nakamura Y, Yoshino T. Transforming cancer screening: the potential of multi-cancer early detection (MCED) technologies. Int J Clin Oncol. 2025 Feb;30(2):180-193. doi: 10.1007/s10147-025-02694-5. Epub 2025 Jan 12. PMID: 39799530; PMCID: PMC11785667.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39799530/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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