健診や診療で得られる情報を中心とした9項目から、将来がんを発症するリスクが高い人を絞り込める可能性が示された。
台湾の台中栄民総医院や東京大学などの研究グループは、年齢や血糖、脂質など9項目からインスリン抵抗性を推定するAI指標「AI-IR」を用いて、がん発症との関連を大規模に分析。6種類のがんと明確に関連することを確認し、研究成果を2026年2月に発表した。
年齢や血糖など9項目からインスリン抵抗性を推定
血糖や脂質、血圧などの健診情報は、生活習慣病だけでなく将来の健康リスク評価にも活用される。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
インスリン抵抗性は、糖尿病や心血管疾患だけでなく、肥満や慢性炎症などを通じてがんとも関係する可能性が指摘されている。
研究グループは、年齢、性別、BMI、空腹時血糖、HbA1c、脂質など9項目からインスリン抵抗性を推定するAI指標「AI-IR」を開発した。
AI-IRは現在がんがあることを示すものではなく、インスリン抵抗性がある可能性を日常的な検査項目から推定する仕組み。
インスリン抵抗性とは、肝臓や筋肉、脂肪組織などでインスリンが効きにくくなった状態。この状態がある場合には、糖尿病や心血管疾患につながるほか、肥満や慢性炎症などを通じて、がんとも関係する可能性が指摘されてきた。
ただし、インスリン抵抗性を正確に測る検査は手間がかかり、一般の健診では広く行われていない。
今回、研究グループは、「年齢」「性別」「人種」「BMI」「空腹時血糖」「HbA1c」「中性脂肪」「総コレステロール」「HDLコレステロール」の9項目から、インスリン抵抗性を推定する「AI-IR」を開発した。
AI-IRは、これらの9項目の情報から、インスリン抵抗性の指標である「HOMA-IR」が2.5を超える確率を計算する。HOMA-IRは、空腹時血糖と空腹時インスリンから算出され、数値が高いほどインスリンが効きにくい状態を示す。研究では、AIが算出した確率が50%を超えた人を「AI-IR陽性」、50%以下の人を「AI-IR陰性」とした。
ここでいう陽性は、がんがあることを示すものではなく、インスリン抵抗性がある可能性が高いと判定されたことを意味する。AI-IRは、米国の国民健康栄養調査と台湾の健診データを用いて開発および検証され、インスリン抵抗性を見分ける性能を示すAUCは0.88だった。AUCは1に近いほど見分ける能力が高いことを示す。
今回、英国の大規模研究「UKバイオバンク」に適用したところ、糖尿病のない1万4165人のうち、AI-IR陽性者は平均4.28年の追跡中に糖尿病を発症する可能性(オッズ)が陰性者の7.31倍であった。
子宮がん2.34倍、腎臓がん1.56倍
AI-IRは、血糖や脂質などの健診項目からインスリン抵抗性を推定する指標。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
UKバイオバンクの約37万人を解析した結果、AI-IR陽性者では6種類のがんで発症リスク上昇が確認された。
リスク上昇は子宮がんで2.34倍、腎臓がんで1.56倍、食道がんで1.46倍、膵臓がんで1.29倍、結腸がんで1.18倍、乳がんで1.14倍だった。
AI-IRはがんを診断するAIではないが、健診情報をもとに重点的な検診を検討する人を絞り込む手掛かりになる可能性がある。
がんの分析対象は、研究開始時にがんにかかったことのない37万2395人で、追跡期間中に5万1,193人が何らかのがんを発症した。
すべてのがんをまとめて調べた場合、AI-IR陽性者と陰性者の間に明確な差はなかった。
一方、がんの種類別では、AI-IR陽性者の発症リスクは、子宮がんで2.34倍、腎臓がんで1.56倍、食道がんで1.46倍、膵臓がんで1.29倍、結腸がんで1.18倍、乳がんで1.14倍だった。これら6種類は、多数のがんを比較した影響を補正した後も統計学的に明確な関連が認められた。
さらに、腎盂、小腸、胃、肝臓・胆のう、白血病、気管支・肺の6種類でもリスク上昇の傾向が見られた。ただし、これらは厳格な統計補正後には明確な関連と判定されておらず、追加検証が必要とされた。
AI-IRと正の関連を示したがんをまとめると、糖尿病がない人でも、AI-IR陽性者は陰性者に比べて発症リスクが25%高かった。BMIを加えて調整した後も16%高く、体重だけでは捉えにくい代謝状態ががんリスクに関係する可能性が示された。
今回のAIは、現在がんがあるかを診断したり、誰が必ずがんになるかを予言したりするものではない。日常的な検査項目からインスリン抵抗性を推定し、将来のがんリスクが高い可能性のある人を抽出する。
健診で得られる情報を、糖尿病や心血管疾患だけでなく、将来のがん検診の優先順位付けに生かす発想は注目される。重点的に検査すべき人を早い段階で絞り込める可能性がある。
今回の研究の対象者は主に欧州系で、登録時40~69歳の参加者だった。日本で活用するには、日本人での精度検証に加え、AI-IRを用いた介入ががんの早期発見や死亡率低下につながるかを確かめる必要がある。