40代の乳がん検診でなぜ「マンモ+超音波」が問われるのか、東北大学の原田成美准教授に聞く Vol.1

高濃度乳房が多い日本人女性、マンモグラフィだけでは見つけにくい課題

原田 成美(はらだ・なるみ)。東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授。(写真:星良孝)
原田 成美(はらだ・なるみ)。東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授。(写真:星良孝)

40代の乳がん検診をどう考えるべきか。日本では、40歳以上の女性を対象にマンモグラフィによる乳がん検診が行われてきた。一方、国内研究では、40代女性の約7割が、乳房内の乳腺組織の割合が高い「高濃度乳房」に該当したとの報告がある。マンモグラフィでは乳腺も乳がんも白く写るため、がんが乳腺に隠れて見えにくくなることがある。こうした課題に対し、日本ではマンモグラフィに乳房超音波検査を組み合わせる有効性を検証する大規模研究「J-START」が進められてきた。なぜ40代で超音波併用が問われたのか。東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授の原田成美氏に聞いた。(聞き手/PREVONO編集長 星 良孝)

──今回の研究を考える前提として、40代の乳がん検診にはどのような課題があったのか。

原田氏:もともと日本では、2000年に50歳以上を対象とするマンモグラフィ検診が国の指針に導入され、2004年度から40歳以上に対象が広がりました。

 検診の有効性は、基本的には死亡率を減少させるかどうかで判断されます。公費を投じて行う対策型検診では、科学的根拠が重要になります。日本でマンモグラフィ検診が導入されたときには、欧米のデータを踏まえる形で始まったという経緯があります。

 一方で、欧米と日本では乳がんの罹患傾向に違いがあります。欧米では、年齢とともに乳がんが増えていく傾向がありますが、日本人を含むアジア人では40代にも罹患の一つの山があります。特に40代後半に乳がんが多くなります。

 そのため、欧米で示されたエビデンスをそのまま日本の40代に当てはめてよいのかという課題がありました。

──40代に乳がんが多いという点が、日本で検証する必要性につながった。

原田氏:そうです。もう一つ大きな問題として、日本人には高濃度乳房が多いことがあります。

 マンモグラフィでは、乳腺も乳がんも白く写ります。乳腺の濃度が高いと、がんが白い乳腺に隠れて見えにくくなります。せっかく検診を受けても、乳がんが乳腺に隠れてしまうことがあるわけです。

 40代は乳がんが少なくない年代であり、同時に高濃度乳房も多い年代です。そこに対して、マンモグラフィだけでよいのか、何か上乗せできる検査はないのかという問題意識がありました。

──そこで超音波検査が候補になった。

原田氏:はい。ただし、超音波がマンモグラフィに取って代わるという話ではありません。

 マンモグラフィでは、それまでにも40代の乳がんは発見されていました。ですから、マンモグラフィをなくすということではなく、マンモグラフィに超音波を併用すると、さらに乳がんを見つけられるのかどうかを検証する必要がありました。

 超音波は、マンモグラフィに比べて、高濃度乳房でも病変を描出しやすい可能性があります。高濃度乳房が多い40代では、マンモグラフィに上乗せする意味があるのではないかと考えられました。

──超音波だけで十分というわけではない。

原田氏:そこも大切です。私たちが進めた研究である「J-START」が検証したのは、超音波だけによる検診ではなく、マンモグラフィに超音波を上乗せした場合に何が変わるかです。

 J-STARTでは、マンモグラフィと超音波を受ける群と、マンモグラフィだけを受ける群に分けました。さらに、併用群でも、あえてマンモグラフィと超音波を独立して判定しました。

 通常の診療では、マンモグラフィで気になる所見があれば、超音波の結果も合わせて総合的に判断することが多いです。しかし、この研究では、それぞれの検査でどの病変が見つかったのかを確認するために、独立判定という方法を取りました。

 研究として比較したのは、あくまでマンモグラフィと超音波の併用群と、マンモグラフィ単独群です。この研究から、超音波だけを受ければよいと結論付けることはできません。マンモグラフィを基本とし、そこに超音波を加えることで感度が高まることが示されました。超音波はマンモグラフィの代替ではなく、併用することで意味を持つ検査だと考えています。

 研究の結果、超音波を併用すると乳がんを見つける感度が高まる一方で、結果的に乳がんではなかった人が精密検査を勧められるケースも増えることが分かりました。

──日本でこの研究が行われたことには、アジアからのエビデンスという意味もある。

原田氏:そう思います。

 高濃度乳房が多い年代に乳がんも多いという背景があります。これは日本人を含むアジア人にとって重要な課題です。そこに対して、アジアから科学的根拠を構築することには大きな意味がありました。

 超音波は、欧米でまったく使われていないわけではありません。マンモグラフィで気になる所見があれば、超音波を使って詳しく調べることはあります。ただ、検診として広く行うとなると、乳房の大きさや検査時間の問題もあり、欧米では現実的に難しい面もあると思います。

 日本では、高濃度乳房が多い40代の女性に対して、超音波を併用する意義を検証する必要がありました。そこからJ-STARTが始まりました。

──現在、超音波検査はどのような形で受けられるのか。

原田氏:自治体が行う対策型検診では、国の指針に基づき、マンモグラフィが基本となっています。一方、自治体によっては超音波を追加しているところもあります。

 職域検診や任意型検診では、健康保険組合が検査内容に超音波を入れている場合や、受診者がオプションとして選べる場合もあります。そのため、実際の検診内容にはばらつきがあります。

 今回の研究結果を受けて、超音波を追加する動きが広がる可能性はありますが、対策型検診の標準とするかどうかは、効果、不利益、費用、実施体制などを踏まえて国が判断することになります。

──40代を対象にした研究であることも重要になる。

原田氏:はい。J-STARTは、40~49歳の女性を対象にした研究です。

 40代に対象を絞ったのは、欧米のエビデンスが主に50歳以上を対象としていたこと、日本人女性では40代後半にも乳がん罹患の山があること、高濃度乳房が多いことが背景にあります。

 ですから、今回の研究から言えるのは、40代においてマンモグラフィに超音波を併用する上乗せ効果が示されたということです。50代以降にも高濃度乳房に該当する人はいますが、年代が上がるにつれて高濃度乳房の割合は少なくなっていきます。50代以降にどのような検診を行うべきかは、今回の研究結果だけでは判断できません。

──高濃度乳房であれば、50代以降でも見えにくさは残る。

原田氏:高濃度乳房であれば、50代でも60代でも、マンモグラフィでがんが見つけにくいという状況はあります。そこに対してどのような検診を行うかは、今後の課題です。

 ただ、今回の研究は40代を対象にしたものです。40代で効果が示されたからといって、そのまますべての年代に広げてよいとは言えません。対象となる年代、乳房濃度、検査の精度、実施体制を考えながら検討していく必要があります。

──今回の研究は、40代の検診にどのような意味を持つのか。

原田氏:40代は乳がんが少なくない一方、高濃度乳房も多い年代です。マンモグラフィを基本としながら、その見えにくさを超音波で補えるかを検証したのがJ-STARTです。

 検診は、単に検査を増やせばよいものではありません。どの年代に、どの検査を組み合わせるべきか、その根拠を積み上げることが大切だと考えています。

プロフィール

原田 成美(はらだ・なるみ)

原田 成美(はらだ・なるみ)。東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授。(写真:星良孝)
原田 成美(はらだ・なるみ)。東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授。(写真:星良孝)

東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野准教授。2000年、秋田大学医学部医学科卒業。2009年、東北大学大学院医学系研究科医科学専攻腫瘍外科学分野博士課程修了。2017年、東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野助教。2025年から現職。日本外科学会外科専門医・代議員、日本乳癌学会乳腺専門医・指導医・評議員、日本乳癌検診学会評議員、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)登録部会員。乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施医師、検診マンモグラフィ読影認定医師、乳がん検診超音波判定医師。

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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