2008年に導入された「メタボ健診」が、国民健康保険(国保)加入の現役世代の健康を実際に押し上げ、医療費の抑制にもつながり得ることが全国データの分析で示された。
早稲田大学などの研究チームが2025年8月19日にオンライン公開された論文で報告した。
健診の「標準化」と自治体の支出増に着目
健康診断の結果票。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- メタボ健診導入後、健診関連支出を特に増やした自治体で、国保加入の現役世代の生活習慣病が減った。
- 生活習慣病を1つ以上診断された人の割合が10.4%低下、2つ以上診断された人の割合は35.8%低下した。
- 生活習慣病患者の減少に伴う医療費削減は、概算では健診関連の保健事業費増加の約9倍だった。
日本では高齢化に伴い、糖尿病や高血圧などを含む生活習慣病の増加により医療費が増大しており、その抑制が課題となっている。その伸びを抑えるため、生活習慣病の予防や早期発見は重要な対策の一つとなる。生活習慣病は、いったん発症すると完治が難しいためだ。
一方で、メタボ健診は、正式には特定健康診査・特定保健指導と呼ばれる。2008年に40歳から74歳までの公的医療保険加入者を対象として、内臓脂肪型肥満に高血糖や高血圧、脂質異常症が重なるメタボリックシンドロームの予防や早期発見を目的として導入された。政府は制度導入に伴い、科学的根拠に基づいた健診・保健指導プログラムを標準化した。
他方、こうした健診やスクリーニングの有効性は専門家の間で意見が分かれている。従来、健診やスクリーニングに関する研究は企業勤務者を対象としたものが中心だった。半面、国保に加入する自営業者や無職者のように、就労形態や加入保険が異なる集団でのエビデンスは乏しく、健診などの効果の全容を把握できていなかった。
研究グループは、メタボ健診制度の導入をきっかけとして、自治体ごとに保健事業費を拡大する動きが出たことに着目。この保健事業費の伸びにより、どの程度人々が健康になったのか、また医療費が減らせたのかを分析した。
具体的には、制度導入前に保健事業費が低かった自治体ほど導入後に支出を大きく増やしたという差を手掛かりに、因果関係を推定する「差の差推定」という手法により、健康状態や健康行動の変化を比較した。分析対象は国保加入の自営業者・失業者(40~59歳)とした。
分析では、制度導入前に自治体が国保の健診・保健指導にどれだけ費用をかけていたかで、全国の自治体を大まかに4つのグループに分けた。導入前の支出が少なかった自治体ほど、制度に合わせるため導入後に費用を大きく増やす必要があったためである。研究チームは、この「費用の増え方」が特に大きかったグループ(下位の自治体)と、増え方が比較的小さかった隣のグループを比べ、制度導入の前後で健康状態や生活習慣がどの程度変わったかを検証した。
医療費削減は支出増の約9倍
医師が検査結果や治療方針について説明している場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- メタボ健診導入後、健診関連支出を特に増やした自治体で、国保加入の現役世代の生活習慣病が減った。
- 生活習慣病を1つ以上診断された人の割合が10.4%低下、2つ以上診断された人の割合は35.8%低下した。
- 生活習慣病患者の減少に伴う医療費削減は、概算では健診関連の保健事業費増加の約9倍だった。
結果として、保健事業費を大きく増やした自治体では、分析対象となった国保加入者の生活習慣病の罹患率が10.4%減少したことが確認された。重症化のリスクが高い2つ以上の生活習慣病を診断された人の割合は35.8%低下した。
なお、健診の受診(参加)率は有意な変化が見られず、健診や保健指導の標準化に伴う、プログラムの質向上や指導内容の改善が、行動変容や疾患リスクの低下につながった可能性が考えられた。
健康行動の面でも変化が確認された。禁煙が進み、飲酒量が減り、1日8000歩以上歩く人が増えたという。健診と保健指導の組み合わせが、生活習慣の修正を後押ししたと考えられる。
費用対効果の試算では、自治体が負担した健診関連の保健事業費の増加額(約23.7億円)に対し、生活習慣病関連の医療費削減が約216.4億円と推計され、約9倍に相当する削減効果が示された。
研究グループは、重症化リスクの高い人に効果が顕著だったことから、医療費の増加要因に直結しやすい層にも効果が及ぶ可能性があると説明する。
ただし、効果は均等に行きわたっていない。自営業者や持ち家世帯など相対的に経済的余裕のある層では改善が見られた一方、失業者や賃貸住宅居住者では改善が確認されなかった。無職者には費用負担感や「自覚症状がない」といった受診回避の要因があるとされ、制度の恩恵が最も必要な層に届きにくい現実が浮かび上がっている。
メタボ健診が病気を減らしたり医療費の抑制につながったりすることが示され、健診やスクリーニングの重要性が改めて明確になった。