コラム

卵巣がんに特徴的な細胞外小胞を血液から検出

名古屋大学など、ナノワイヤ技術で新たなリキッドバイオプシー候補を報告

医療従事者が注射器を使い、腕に処置を行っている様子。
腕への注射や採血などの処置を行う場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

前回は、尿中エクソソームに含まれるマイクロRNAを利用して、がんの存在を調べる研究を紹介した。

今回は、同じ名古屋大学などの研究グループによる別のアプローチを見ていく。研究グループは、血液中を流れる細胞外小胞(EV、Extracellular Vesicles)の表面にあるタンパク質に注目し、卵巣がんに特徴的なEVを見つけ出す方法を報告した。

卵巣がん由来の細胞外小胞を見つける

白衣を着た担当者が、女性と向き合って説明しているカウンセリングの様子。
検査や健康相談について説明を受ける場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 卵巣がんは早期には症状が乏しく、特に高異型度漿液性卵巣がんは発見が遅れやすい。
  • 研究グループは、血液中を流れる細胞外小胞に注目し、卵巣がん由来の情報を見つけようとした。
  • ポリケトンで表面を覆った酸化亜鉛ナノワイヤを使い、血液中の細胞外小胞を効率よく回収する方法が用いられた。

卵巣がんは早期には症状が乏しく、発見が遅れやすいことが知られている。特に高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC、High-Grade Serous Ovarian Carcinoma)は、卵巣がんの中で最も多く、死亡原因の多くを占めるタイプだ。

そこで研究グループが注目したのが、血液中の細胞外小胞だった。

PREVONOで既に紹介しているように、細胞外小胞は、細胞から放出される小さな粒子で、エクソソームもその一種に含まれる。内部にはRNAやタンパク質などが含まれており、元の細胞の状態を反映している可能性がある。血液中には正常な細胞由来の細胞外小胞も多く、がん由来の細胞外小胞だけを見分けるのは難しい。

今回の研究では、「ポリケトン」という素材で表面を覆った酸化亜鉛ナノワイヤを用いて、血液中の細胞外小胞を効率よく回収しようとした。前回紹介した尿中エクソソーム研究でも、細い針状のナノワイヤが利用されていたが、本研究では表面を改良することで、細胞外小胞の回収性能の向上を目指している。ポリケトンは炭素や酸素などからなる高分子材料で、細胞外小胞が付着しやすい表面を作るために利用された。

その上で、研究グループは、回収した細胞外小胞の表面にあるタンパク質を解析し、卵巣がん患者と非がんの人の血液を比較した。

卵巣がんに特徴的なEVの目印を発見

エクソソームや細胞外小胞を思わせる球状構造の内部に、分子やRNAのような構造が描かれている様子。
エクソソームや細胞外小胞の内部構造を模式的に表したもの。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 高異型度漿液性卵巣がんの患者では、MMP7とCLDN3を表面に持つ細胞外小胞が多いことが示された。
  • この2つのタンパク質を同時に持つ細胞外小胞が、卵巣がんを見分ける新しいマーカー候補になる可能性がある。
  • 実際の検診や診断に使うには、より多くの患者での検証や、ほかの病気との区別が今後の課題になる。

解析の結果、高異型度漿液性卵巣がんの患者では、「MMP7」と「CLDN3」という2つのタンパク質を表面に持つ細胞外小胞が多いことが分かった。

 MMP7やCLDN3は、がんとの関係が研究されてきたタンパク質だ。研究グループは、この2つを同時に持つ細胞外小胞が、高異型度漿液性卵巣がんを見分ける新しいマーカー候補になる可能性を示した。

ただし、今回の研究は、新しい検出技術を開発し、卵巣がんに特徴的なEVの候補を見つけた段階の成果だ。検診や診断に使うには、この方法で卵巣がんを見分けられるのか、ほかの病気でも同じような反応が出ないのかを、より多くの患者で確かめる必要がある。

前回の研究が、尿中エクソソームの中にあるマイクロRNAを読む方法だったのに対し、今回の研究は、血液中のEVの表面にあるタンパク質から、卵巣がんに関係するEVを見分けようとするものだ。

細胞外小胞を使うリキッドバイオプシーには、中身を読む方法と、表面の目印を見る方法があり、その使い分けも重要な視点になる。

参考文献

Yokoi A, Ukai M, Yasui T, Inokuma Y, Hyeon-Deuk K, Matsuzaki J, Yoshida K, Kitagawa M, Chattrairat K, Iida M, Shimada T, Manabe Y, Chang IY, Asano-Inami E, Koya Y, Nawa A, Nakamura K, Kiyono T, Kato T, Hirakawa A, Yoshioka Y, Ochiya T, Hasegawa T, Baba Y, Yamamoto Y, Kajiyama H. Identifying high-grade serous ovarian carcinoma-specific extracellular vesicles by polyketone-coated nanowires. Sci Adv. 2023 Jul 7;9(27):eade6958. doi: 10.1126/sciadv.ade6958. Epub 2023 Jul 7. PMID: 37418532; PMCID: PMC10328412.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37418532/

尿中エクソソームの「マイクロRNA」でがんを検出
https://prevono.net/column/1817/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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