コラム

血液中のマイクロRNAから早期がんがどの臓器のがんかを予測

日本で進む、採血によるがん検査研究の新しい方向性

医師がパソコンの前で、人体や臓器の情報を示すデジタル画面を操作している様子。
医療データや検査情報を確認する医師。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 血液中のマイクロRNAをがん検査に生かす研究については、これまでの連載でも取り上げてきた。今回はその流れを、もう少し別の角度から見ていく。

 注目したいのは、採血によってがんの有無を探るだけでなく、どの臓器のがんである可能性が高いかまで推定しようとする研究だ。

 国立がん研究センターなどの研究チームは、血液中のマイクロRNAのパターンを解析し、早期がんがどの臓器に関係している可能性が高いかを見分ける研究を報告している。

血液で「どのがんか」まで探る技術

マスクと手袋を着けた研究者が、顕微鏡を使って検体を扱っている様子。
検査室で顕微鏡を用いて検体を確認する研究者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 血液中のマイクロRNAを解析し、がんの有無だけでなく、どの臓器のがんである可能性が高いかを推定する研究が進んでいる。
  • マイクロRNAは細胞の働きを調整する小さなRNAで、がんの種類によって血液中での現れ方が変わる可能性がある。
  • 多数のマイクロRNAを機械学習で解析し、13種類のがんについて臓器ごとの特徴を見分ける仕組みが作られた。

 リキッドバイオプシーでは、血液や体液からがんに関係する情報を読み取る研究が進んでいる。ただし、検査でがんの可能性を拾い上げるだけでは、実際の受診や精密検査につなげる上で情報が足りない場合がある。

 そこで重要になるのが、血液中の情報から「どの臓器のがんらしいか」まで推定する考え方だ。肺、胃、大腸、膵臓など、疑うべき臓器を絞り込めれば、その後の画像検査や内視鏡検査につなげやすくなる。

 今回の研究で注目されたのは、血液中に現れるマイクロRNAの組み合わせだ。マイクロRNAは、細胞の働きを調整する小さなRNAで、血液中では細胞外小胞やエクソソームに含まれるものもある。がん細胞やその周囲の細胞の状態を反映する可能性があり、がんの種類によって血液中での現れ方が変わると考えられている。

 研究チームは、一つのマイクロRNAだけに注目するのではなく、多数のマイクロRNAをまとめて測定し、がんの種類ごとにどのような違いが現れるかを調べた。対象には、乳がん、大腸がん、胃がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、胆道がんなど13種類のがんが含まれる。

 その上で、機械学習を用いてマイクロRNAの組み合わせを解析し、血液のデータから「どの臓器のがんである可能性が高いか」を判定する仕組みを作った。単一の腫瘍マーカーを見るのではなく、多数のマイクロRNAをまとめて読み取り、がんごとの特徴を見分ける点に特徴がある。

早期発見後の「次の検査」につながる可能性

ピペットの先端から、マイクロプレートに液体を滴下しようとしている様子。
マイクロプレートを用いた検査・分析作業。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 血液中のマイクロRNAのパターンは、がんの種類ごとに異なることが示された。
  • 疑うべき臓器を絞り込めれば、内視鏡検査やCT、MRIなど、次に必要な精密検査へつなげやすくなる。
  • 血液中の分子情報と機械学習を組み合わせることで、がんの可能性をより細かく理解する検査へ発展する可能性がある。

 解析の結果、血液中のマイクロRNAのパターンは、がんの種類ごとに異なることが示された。

 13種類のがんを対象にした解析では、乳がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がんなどで高い感度が示された。一方で、胆道がんでは相対的に低く、がんの種類によって判定のしやすさに差があった。

 ここでいう感度とは、実際にがんがある人を、検査で正しく拾い上げられる割合を指す。高い感度が示されたがんでは、血液中のマイクロRNAの情報が、がんの種類を見分ける手掛かりになりやすい可能性がある。

 この点は、複数のがんを一度に調べる検査を考える上で重要となる。胃や大腸であれば内視鏡検査、肺や膵臓であればCT、MRI、超音波検査など、疑われる臓器に応じて次に行う検査が変わるためだ。

 血液を使う検査は、体への負担が比較的小さく、繰り返し調べやすい。マイクロRNAの情報から疑うべき臓器まで示せれば、胃や大腸の内視鏡検査、CTやMRIなど、次に必要な確認検査へ進む流れを作りやすくなる。

 今回の研究は、エクソソームを含む細胞外小胞やマイクロRNAを、がん検査にどう応用していくかを考える上でも意味がある。血液中の分子情報を読み解くことで、がんの有無だけでなく、どの臓器のがんである可能性が高いかまで捉えられる可能性を示している。

 多数のマイクロRNAの組み合わせを人の目だけで読み解くのは難しい。その点で、機械学習などを用いて複雑なパターンを解析していることも興味深い。将来的には、機械学習を含む人工知能などの解析技術の進歩に伴い、血液中に現れるわずかな変化から、がんの可能性をより細かく理解する検査へ発展していく可能性がある。

参考文献

Matsuzaki J, Kato K, Oono K, Tsuchiya N, Sudo K, Shimomura A, Tamura K, Shiino S, Kinoshita T, Daiko H, Wada T, Katai H, Ochiai H, Kanemitsu Y, Takamaru H, Abe S, Saito Y, Boku N, Kondo S, Ueno H, Okusaka T, Shimada K, Ohe Y, Asakura K, Yoshida Y, Watanabe SI, Asano N, Kawai A, Ohno M, Narita Y, Ishikawa M, Kato T, Fujimoto H, Niida S, Sakamoto H, Takizawa S, Akiba T, Okanohara D, Shiraishi K, Kohno T, Takeshita F, Nakagama H, Ota N, Ochiya T; Project Team for Development and Diagnostic Technology for Detection of miRNA in Body Fluids. Prediction of tissue-of-origin of early stage cancers using serum miRNomes. JNCI Cancer Spectr. 2023 Jan 3;7(1):pkac080. doi: 10.1093/jncics/pkac080. PMID: 36426871; PMCID: PMC9825310.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36426871/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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