ポイント
名古屋大学などが、卵巣がんに特徴的な細胞外小胞(EV)を血液から検出する手法を報告。
特別な処理をした「ナノワイヤ」を用いて、血液中のEVを効率よく回収し、表面タンパク質を解析。
「MMP7」と「CLDN3」と呼ばれるタンパク質を持つ細胞外小胞が、卵巣がんの目印になる可能性。
前回は、尿中エクソソームに含まれるマイクロRNAを利用して、がんの存在を調べる研究を紹介した。
今回は、同じ名古屋大学などの研究グループによる別のアプローチを見ていく。研究グループは、血液中を流れる細胞外小胞(EV、Extracellular Vesicles)の表面にあるタンパク質に注目し、卵巣がんに特徴的なEVを見つけ出す方法を報告した。
卵巣がん由来の細胞外小胞を見つける
検査や健康相談について説明を受ける場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
卵巣がんは早期には症状が乏しく、特に高異型度漿液性卵巣がんは発見が遅れやすい。
研究グループは、血液中を流れる細胞外小胞に注目し、卵巣がん由来の情報を見つけようとした。
ポリケトンで表面を覆った酸化亜鉛ナノワイヤを使い、血液中の細胞外小胞を効率よく回収する方法が用いられた。
卵巣がんは早期には症状が乏しく、発見が遅れやすいことが知られている。特に高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC、High-Grade Serous Ovarian Carcinoma)は、卵巣がんの中で最も多く、死亡原因の多くを占めるタイプだ。
そこで研究グループが注目したのが、血液中の細胞外小胞だった。
PREVONOで既に紹介しているように、細胞外小胞は、細胞から放出される小さな粒子で、エクソソームもその一種に含まれる。内部にはRNAやタンパク質などが含まれており、元の細胞の状態を反映している可能性がある。血液中には正常な細胞由来の細胞外小胞も多く、がん由来の細胞外小胞だけを見分けるのは難しい。
今回の研究では、「ポリケトン」という素材で表面を覆った酸化亜鉛ナノワイヤを用いて、血液中の細胞外小胞を効率よく回収しようとした。前回紹介した尿中エクソソーム研究でも、細い針状のナノワイヤが利用されていたが、本研究では表面を改良することで、細胞外小胞の回収性能の向上を目指している。ポリケトンは炭素や酸素などからなる高分子材料で、細胞外小胞が付着しやすい表面を作るために利用された。
その上で、研究グループは、回収した細胞外小胞の表面にあるタンパク質を解析し、卵巣がん患者と非がんの人の血液を比較した。
卵巣がんに特徴的なEVの目印を発見
エクソソームや細胞外小胞の内部構造を模式的に表したもの。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
高異型度漿液性卵巣がんの患者では、MMP7とCLDN3を表面に持つ細胞外小胞が多いことが示された。
この2つのタンパク質を同時に持つ細胞外小胞が、卵巣がんを見分ける新しいマーカー候補になる可能性がある。
実際の検診や診断に使うには、より多くの患者での検証や、ほかの病気との区別が今後の課題になる。
解析の結果、高異型度漿液性卵巣がんの患者では、「MMP7」と「CLDN3」という2つのタンパク質を表面に持つ細胞外小胞が多いことが分かった。
MMP7やCLDN3は、がんとの関係が研究されてきたタンパク質だ。研究グループは、この2つを同時に持つ細胞外小胞が、高異型度漿液性卵巣がんを見分ける新しいマーカー候補になる可能性を示した。
ただし、今回の研究は、新しい検出技術を開発し、卵巣がんに特徴的なEVの候補を見つけた段階の成果だ。検診や診断に使うには、この方法で卵巣がんを見分けられるのか、ほかの病気でも同じような反応が出ないのかを、より多くの患者で確かめる必要がある。
前回の研究が、尿中エクソソームの中にあるマイクロRNAを読む方法だったのに対し、今回の研究は、血液中のEVの表面にあるタンパク質から、卵巣がんに関係するEVを見分けようとするものだ。
細胞外小胞を使うリキッドバイオプシーには、中身を読む方法と、表面の目印を見る方法があり、その使い分けも重要な視点になる。
参考文献
Yokoi A, Ukai M, Yasui T, Inokuma Y, Hyeon-Deuk K, Matsuzaki J, Yoshida K, Kitagawa M, Chattrairat K, Iida M, Shimada T, Manabe Y, Chang IY, Asano-Inami E, Koya Y, Nawa A, Nakamura K, Kiyono T, Kato T, Hirakawa A, Yoshioka Y, Ochiya T, Hasegawa T, Baba Y, Yamamoto Y, Kajiyama H. Identifying high-grade serous ovarian carcinoma-specific extracellular vesicles by polyketone-coated nanowires. Sci Adv. 2023 Jul 7;9(27):eade6958. doi: 10.1126/sciadv.ade6958. Epub 2023 Jul 7. PMID: 37418532; PMCID: PMC10328412.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37418532/
尿中エクソソームの「マイクロRNA」でがんを検出
https://prevono.net/column/1817/