低線量CTによる肺がん検診の普及は、どのような影響をもたらすのか。
前回は、東アジアの複数の研究をもとに、非喫煙者への低線量CTによる肺がん検診と過剰診断の問題を考えた。
今回は、その検討材料の一つとして取り上げられていた、韓国の全国データ研究を詳しく見る。この研究は、低線量CTによる肺がん検診の広がりが、早期発見の増加や過剰診断、手術などの医療利用にどう関係するかを調べたものだ。
韓国ソウル大学病院などの研究グループが2024年12月にオンラインで論文を発表した。
早期肺がんは増えたが、進行肺がんの減少は小さい
検査装置の内部と検査台。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
韓国では、推奨対象ではない人にも低線量CTによる肺がん検診が広がっている実態がある。
女性では早期肺がんの診断が大きく増えた一方、遠隔転移のある肺がんの減少は小さかった。
研究グループは、早期肺がんの増加の一部に、もともと進行しにくい病変を見つける過剰診断が含まれる可能性を指摘している。
韓国では、喫煙歴が長い人など肺がんリスクが高い人を対象に、低線量CTによる肺がん検診が行われている。一方で、研究グループは、推奨対象ではない人にも低線量CT検診が広がっている実態に注目した。
具体的には、韓国の国家肺がん検診では、54〜74歳で、30パック・年(1日の喫煙箱数×喫煙年数)を超える喫煙歴がある人が対象とされる。禁煙後15年未満の元喫煙者も含まれる。
こうした条件に当てはまらない人への検診拡大が、どのような影響をもたらすのかが研究の焦点となった。
韓国では、男性の喫煙率は2001年の61.3%から2021年には30.7%へ低下した。一方、女性の喫煙率は約6%で推移していた。
その状況の下、2020年時点で、韓国の国家肺がん検診の対象に当てはまる人は、男性で2.4%、女性で0.04%にとどまっていた。
それに対して、健康診断の際に自費で低線量CTを受ける人は増え、2004年から2020年にかけて、男性では29%から60%、女性では7%から46%に増えていた。
この広がりと並行して、女性では早期肺がんと診断される人が大きく増えた。
2005年から2019年にかけて、肺の中にとどまる早期肺がんは、人口10万人当たり7.6人から13.7人へとほぼ倍増。一方で、遠隔転移のある肺がんは16.1人から15.0人への減少にとどまった。
女性では、肺がん全体の診断も人口10万人当たり29.8人から39.3人に増えた。一方で、肺がん死亡は23.3人から19.8人へ減っていた。研究グループは、死亡の減少に比べて早期がんの増加が大きい点に注目している。
検診の効果が十分にあれば、早期肺がんが増える一方で、進行肺がんは大きく減るはずだ。
報告されたデータでは、早期肺がんの増加に比べて、進行肺がんの減少は小さかった。研究グループは、この差の一部が過剰診断による可能性があると見ている。低線量CT検診によって、もともと進行しにくい肺がんまで多く見つかっている可能性があるということだ。
手術件数の増加から見える過剰治療の問題
検査を受ける患者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
韓国では肺の手術件数が増えており、特に女性では肺がん手術と良性病変に対する手術の増加が目立った。
小さな肺病変では手術以外で診断を確定しにくく、診断と治療を兼ねて手術が選ばれやすくなる。
低線量CT検診を低リスクの人に広げる際は、肺がん死亡を減らす利益と、不要な検査や手術を増やす不利益の両方を確かめる必要がある。
前回見たように、過剰診断は過剰治療につながる可能性がある。
研究では、韓国で肺の手術件数が増えていることも示された。特に女性では、肺の手術全体が2010年の3565件から2022年には8595件に増えた。このうち肺がん手術は1365件から4375件へと大きく増えていた。肺がん以外の良性病変に対する手術も増えていた。
男性でも肺の手術は9111件から1万5083件に増え、肺がん手術は2810件から5410件に増えていた。ただし、増加は女性でより目立っていた。
また、2022年には、肺の一部だけを切除する手術が多くを占めていた。小さな病変を対象に、肺を大きく切り取るのではなく、部分的に切除する手術が増えていることを示している。
一方で、気管支鏡検査や針生検など、手術以外で診断を確かめる検査は大きく増えていなかった。小さな肺病変では、手術以外の検査で確定することが難しい場合がある。そのため、診断と治療を兼ねて手術が選ばれやすくなる。
しかし、手術には合併症や肺機能低下のリスクがある。将来にわたり治療を必要としない病変まで手術すれば、患者は本来避けられたはずの負担を負うことになる。合併症、肺機能の低下、医療費の増加などは、過剰診断が過剰治療につながった場合の具体的な弊害だ。
研究グループは、現在の推奨基準から外れる低リスクの人に低線量CTによる肺がん検診を広げる場合、肺がん死亡を実際に減らせるのかを確かめる必要があるとしている。同時に、不要な検査や手術をどれだけ増やすのかも見なければならない。
早期発見が増えることと、患者の利益が増えることは必ずしも同じではない。韓国のデータは、低線量CTによる肺がん検診の広がりを考える上で、過剰診断と過剰治療が避けて通れない課題であることを示している。PREVONOでは引き続き、過剰診断の問題について考えていく。
参考文献
Kim SY, Silvestri GA, Kim YW, Kim RY, Um SW, Im Y, Hwang JH, Choi SH, Eom JS, Gu KM, Kwon YS, Lee SY, Lee HW, Park DW, Heo Y, Jang SH, Choi KY, Kim Y, Park YS. Screening for Lung Cancer, Overdiagnosis, and Healthcare Utilization: A Nationwide Population-Based Study. J Thorac Oncol. 2025 May;20(5):577-588. doi: 10.1016/j.jtho.2024.12.006. Epub 2024 Dec 9. PMID: 39662732; PMCID: PMC12066224.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39662732/