PREVONOでは、「過剰診断」を重要なテーマの一つとして継続的に取り上げている。
乳がん検診は、がんを早く見つけ、乳がんによる死亡を減らすことを目的に行われている。一方で、命に関わらないがんまで見つけてしまう「過剰診断」や、それに伴う「過剰治療」への懸念も指摘されてきた。
今回、こうした懸念を理由に乳がん検診や乳がん治療を辞退した女性たちの経験が明らかにされた。
英国レスター大学などの研究グループが2024年12月に発表した。
検診を辞退した女性の判断を聞き取りで分析
乳がん検診では、利益だけでなく過剰診断や過剰治療の可能性も含めて理解し、受診するかどうかを判断することが重要になる。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
乳がん検診には早期発見による利益がある一方、命に関わらないがんを見つける過剰診断や、それに伴う過剰治療の懸念もある。
研究グループは、乳がん検診や追加検査、治療などを辞退した女性20人に聞き取り調査を行った。
参加者が検診や治療の情報をどう受け止め、利益と害を比較し、辞退という判断に至ったのかが分析された。
乳がん検診では、症状がない段階でがんを見つけることができる。早期に発見できれば、治療が成功しやすくなり、乳がんによる死亡を減らすことが期待される。英国では、英国国民保健センター(NHS)乳がん検診プログラムにより、対象年齢の女性に定期的な検診案内が送られている。
一方で、検診には利益だけでなく害もある。見つかったがんの中には、生涯にわたって症状を起こさなかった可能性のあるものも含まれる。これが過剰診断だ。過剰診断が起きると、本来は必要なかった手術、放射線治療、薬物療法などにつながる可能性がある。これを過剰治療と呼ぶ。
乳がん検診では、過剰診断に当たるがんを検査の時点で見分けることは難しい。例えば、非浸潤性乳管がん(DCIS)は乳がんのごく早い段階として検診で見つかることがあるが、すべてが浸潤性の乳がんに進むわけではない。そのため、検診を受けるかどうか、また異常が見つかった後に追加検査や治療を受けるかどうかは、本人にとって重要な判断となる。
研究グループは、NHS乳がん検診プログラムの案内を受けた後、マンモグラフィー、追加検査、乳房切除、化学療法、放射線治療、継続的な薬物療法などのいずれかを辞退した女性20人に聞き取り調査を行った。
対象者は49〜76歳で、調査は2021年5月から2022年4月にかけて実施された。
参加者には、最初から検診を受けなかった人もいれば、一度は検診を受けた後に次回以降を辞退した人、異常が見つかった後に追加検査や治療を辞退した人もいた。研究グループは、あらかじめ一定の質問項目を用意しつつ、回答に応じて詳しく尋ねる「半構造化インタビュー」を行い、参加者がどのように情報を受け止め、利益と害を比較し、辞退という判断に至ったのかを分析した。
「受ける前提」の案内に違和感
乳がん検診の受診や治療の選択には、利益と害の両方を踏まえたインフォームド・チョイスが関わる。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
参加者の一部は、乳がん検診の案内について、中立的な情報というより受診を勧める情報として受け止めていた。
検診や治療を単に避けていたのではなく、研究論文や医療者への質問を通じて、過剰診断や過剰治療の害も考慮して判断していた。
研究グループは、検診の受診促進と、本人が利益と害を理解して選ぶインフォームド・チョイスの両立が課題になると指摘している。
分析の結果、参加者の語りから3つの主要なテーマが示された。検診案内の情報が受診を促す方向に偏っていると感じたこと、利益と害を比較しながら自ら判断していたこと、辞退後に将来の後悔と向き合っていたことだ。
参加者の一部は、NHSの乳がん検診案内について、受診するかどうかを選ぶための中立的な情報というより、受診を勧めるための情報として受け止めていた。乳がんを早く見つける利益は示される一方で、過剰診断や過剰治療によって生じる害の説明が十分ではないと感じていた。あらかじめ検診日時が指定されている案内についても、形式上は辞退できるとしても、受診が前提に置かれているように感じた人がいた。
一方で、参加者は単に検診や治療を避けていたわけではなかった。医療者に質問したり、研究論文や根拠に基づく情報を読んだりしながら、乳がん検診の利益と害を自分の状況に照らして検討していた。検診で早く見つけることの利点だけでなく、症状を起こさない可能性のある病変が見つかり、治療につながる負担も考慮していた。
今回の参加者には、医療や科学分野の背景を持つ人が多かった。そのため、過剰診断や過剰治療に加えて、検診の効果を評価する研究の限界について理解している人もいた。研究グループは、この点について、今回の参加者が一般的な検診対象者を代表しているとは限らないとしつつ、検診を辞退する人の中に高度な健康情報の理解に基づいて判断する人がいることを示すものと位置づけている。
また、辞退した判断を後からどう受け止めるかも重要なテーマだった。論文では、非浸潤性乳管がんと診断された後に乳房切除を辞退し、経過観察を希望した後、8〜9年を経て浸潤性乳がんと診断された女性2人の語りが紹介されている。2人はその後に治療を受けたが、当時の判断について、治療による負担を避け、一定期間の生活の質を保てた点で、自分にとって納得できる選択だったと語っていた。
今回の研究は、乳がん検診や治療を辞退する人の中に、情報不足や無関心ではなく、過剰診断や過剰治療の害を理解した上で判断する人がいることを示した。研究グループは、検診の受診を促す仕組みと、本人が利益と害を理解して選ぶ「インフォームド・チョイス」をどう両立させるかが課題になると指摘している。