コラム

AIは胃がんの疑いをその場で見分けられるか

細胞レベルで見る特殊な内視鏡とAIで生検の負担軽減へ

医療スタッフが、横向きに寝た患者に内視鏡検査を行っているイラスト。
上部消化管内視鏡検査を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 「AIはがんをどこまで早く見つけられるか」の連載では、乳がん、大腸がんなどでAI(人工知能)が診断を支援する可能性を見てきた。

 今回は、胃の病変をその場で見分け、必要な生検をより正確に行うためのAI技術を取り上げる。

 中国の山東大学などの研究グループは、胃の粘膜を細胞レベルで観察できる特殊な内視鏡画像をAIで解析し、胃炎から前がん病変、胃がんまでをリアルタイムに分類するシステムを開発した。951人を実際の検査で調べ、その結果を2025年9月に報告した。

AIは「その場で診断」に近づけるのか

診察室で、医師が内視鏡を使って患者の上部消化管を検査している様子。
内視鏡検査を受ける患者と検査を行う医師。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 胃がんは、胃炎から前がん病変を経て発生することがあり、早い段階で見つけることが重要になる。
  • 通常の内視鏡検査では、見た目だけで判断が難しい場合に生検を行い、病理検査で確定診断する。
  • 研究では、特殊なレーザー内視鏡画像をAIが解析し、組織を採らずに病変の種類を推定する「光学的生検」を目指した。

 研究報告によれば、胃がんは世界で発症数が5番目に多く、がんによる死亡原因では3番目に多い。早期に発見できれば内視鏡治療で治る可能性もあるが、多くは進行してから見つかることが課題となっている。

 胃がんの一部は、胃の粘膜が長い時間をかけて変化する中で発生すると考えられている。まず胃に炎症が起こり、胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎、胃の粘膜が腸に似た性質に変わる腸上皮化生を経て、細胞の形や並びに異常が出る異形成へ進む。この流れの先に胃がんが生じることがある。

 こうした段階的な変化は「コレア・カスケード」と呼ばれる。胃がんが突然現れるのではなく、炎症から前がん病変へと進む一連の道筋を示す考え方だ。そのため、前がん病変の段階で見つけ、経過を追うことが重要になる。

 現在の胃内視鏡検査では、見た目だけで良性か悪性かを判断できない場合、生検で組織を採取し、病理検査で確定診断する。しかし、生検の数が増えると患者の負担や出血のリスク、病理医の負担、医療費の増加につながる。

 そこで研究グループが開発したのが、AIを組み合わせた「光学的生検」だ。特殊なレーザー内視鏡で胃の粘膜を細胞レベルまで観察し、その画像をAIがその場で解析する。組織を採らずに病変の種類を推定し、必要な部位を狙って生検することを目指す技術だ。

 研究では、過去に行われた5771件の検査から得た画像や動画を使ってAIを学習させた。その後、951人の患者、1254病変を対象に、実際の検査の中でAIの性能を調べた。AIと熟練内視鏡医がそれぞれ独立して診断し、最終的な病理診断と比べた。

胃がんの疑いを高い感度で捉える

医療スタッフが、検査室で内視鏡スコープを手に持っている様子。
内視鏡検査に使用されるスコープ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • AIは胃炎から胃がんまでの5段階を、実際の検査で91~97%の精度で分類した。
  • 高異型度異形成・胃がんでは感度98.4%、特異度97.1%と高い診断性能を示した。
  • 腫瘍性病変を拾い上げる力に強みがある一方、特殊機器を使う単施設研究であり、一般化には追加検証が必要とされた。

 実際の検査では、AIは胃炎、萎縮性胃炎、腸上皮化生、低異型度異形成、高異型度異形成・胃がんの5段階を91~97%の精度で分類した。

 特に、高異型度異形成と胃がんでは高い成績を示した。病変を正しく陽性と判定する感度は98.4%、病変ではないものを正しく陰性と判定する特異度は97.1%だった。

 さらに、低異型度異形成と高異型度異形成・胃がんを合わせた「腫瘍性病変」では、AIの感度は96.7%だった。熟練した内視鏡医の89.0%を上回っており、腫瘍性病変の見逃しを減らせる可能性が示された。

 一方で、AIがすべての点で熟練医を上回ったわけではない。高異型度異形成・胃がんについては、病変を正しく分類できた割合や特異度は、熟練医の方が高かった。よって、AIは疑わしい病変を見逃さず拾い上げる力に強みを示したが、その分、がんではない病変まで疑わしいと判定する可能性もある。見逃しを減らす一方で、必要以上の生検につながる可能性が残る点には注意が必要となる。

 また、この研究は中国の1つの医療機関で行われ、特殊なレーザー内視鏡の扱いに慣れた熟練医が検査を担当していた。そのため、一般的な医療機関でも同じような成績が得られるかは、今後さらに検証する必要がある。

参考文献

Liu G, Li G, Li Z, Shao X, Ji R, Ma T, Zhang Y, Su J, Qi Q, Guo J, He Y, Yang X, Li Y, Zuo X. Deep learning-aided optical biopsy achieves whole-chain diagnosis of Correa cascade of gastric cancer: a prospective study. BMC Med. 2025 Sep 30;23(1):527. doi: 10.1186/s12916-025-04310-9. PMID: 41029674; PMCID: PMC12481803.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41029674/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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